『五つの旅の物語』

目黒それでは『五つの旅の物語』にいきます。2010年に講談社から出た本ですが、表紙に、「写真家・椎名誠の集大成」とある。ここで言う五つの旅とは、目次にこう並んでいる。


 砲艦リエンタール号 マゼラン海峡をいく
 チベットの聖山カイラス巡礼記
 ロシアの極北狩猟民族イーゴリさんと犬の話
 チャーリーのイッカククジラ狩り
 タクラマカン砂漠「楼蘭」探検記

この五つの旅の記録を写真をメインに、文章は写真の下に数行だけ,という体裁でまとめた本だね。これはさ、どこかの雑誌に載ったものをまとめたものなの?

椎名この本のために新たに編んだんだよ。

目黒この五つの旅についてはそれぞれ写文集として以前に刊行してるはずだけど、見たことのない写真が多いんだ。

椎名写真はたくさん撮ってるからね。

目黒いい写真はすでに使っているはずなのに、まだこれだけ写真があったということか。

椎名写真は記憶に残るからね、同じ写真はなるべく使わないほうがいい。

目黒ひとつ疑問があるんだけど、いい?

椎名いいよ。

目黒「ロシアの極北狩猟民族イーゴリさんと犬の話」という項で、イーゴリさんがアザラシ狩りにいく様子が撮られているんだけど、リーダーのアイダーは出産したばかりで不在であると。そうすると他の犬たちは勝手なことをするから、ソリが進まない。その様子を写した写真がまず載っているんだけど、問題は次の写真に、そのアイダーが写っている。ここのページの文章を引きます。

「政府が作ってくれた近代的な住宅に預けられたアイダーが夜明けの風の中で五キロ離れたところにいる仲間たちの混乱した気配を感じている」

ここで、ええっと思うよね。これ、両方とも椎名が写したのかよと。だってアイダーのいないソリの写真があって、そのとき5キロ離れているところにいるアイダーの写真があるんだ。驚くのはそのまた次の写真。見開きで大きく大雪原が載っていて,そこを一頭の犬が飛ぶように走っている。躍動感あふれる写真で、とてもカッコいい。このページの文章も引いておきます。

「アイダーが走っていた。全速力だ。まるで宙に浮いているように見える。極北に生きる動物の本能がアイダーを勝手に走らせていた。昨日出産したばかりだというのに」

おいおい、この写真を撮ったのも椎名なのかよって、ここでも驚くよね。イーゴリさんと一緒にいたはずなのに、ここにもいるのかよって。椎名は神出鬼没だなって(笑)。

椎名よく気がついたな(笑)。

目黒なんなのよこれ。

椎名これだけ創作だな。ようするに写真を組み合わせて構成した。

目黒他の四つの旅はドキュメンタリーだけど、この「ロシアの極北狩猟民族イーゴリさんと犬の話」はドキャメンタリーではないと。

椎名お前で二人目だよ(笑)。写真展のときに気がついた人がいた(笑)。

目黒気がつくよこれ(笑)。ちょっとまってね、この宙を飛ぶように走っている犬は本当にアイダーなの?

椎名似てるけど違うかもしれない(笑)。

目黒リーダー犬がいないとソリを引く犬の群れはばらばらになって統一が取れないってのは本当?

椎名それは事実。

目黒アイダーが出産翌日にソリを引いたというのも本当?

椎名それも本当。

目黒まったくなあ。

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