『すすれ! 麺の甲子園』

目黒それでは次は『すすれ! 麺の甲子園』です。小説新潮に連載して、2008年4月に新潮社から本になって、2010年10月新潮文庫と。ようするに日本全国の麺を食べ歩いて、麺の日本一を決めようという壮大な企画だね。すごいのは一日に4杯も5杯も食べること。よく出来るよね。

椎名その街に一週間とか二週間滞在するなら一日一杯でもいいけど、そういうわけじゃないからね。だからどんなに美味しくてもお代わりはしないようにした。

目黒そうか、あとがあるからね。

椎名ぐっと我慢するんだよ。

目黒面白いのは、まずいものを食べたときに「まずい」と書くけれど最初のころは店名を書いていない。ところが最後のほうになるとすごいよ。たとえばこう書いている。

ツユはぬるく脂っぽくメリハリがない。めんは小麦粉の味が強く炭水化物の固まり、という文字が浮かぶ。なんだこれは、こんなところに嬉しそうにゾンビが並ぶからこんなものが崇められるのだろう。

ここには店名が書いている。神田川沿いの「べんてん」という店だね。これ、クレームはこなかったの?

椎名こなかった。

目黒というのは、違う連載の話だけど、香川のラーメンを食べて「バカヤロ的にまずかった」と週刊誌に書いたら、富山のラーメン業界が激しく怒り、スポーツ新聞や地元テレビのワイドショーが騒ぎだして騒動になったとこの本に書いているんだよ。この騒動はその後どうなったの?

椎名うやむやに終わった。

目黒もちろんいつもまずいと書いているわけじゃなくて、たとえば新潟のホテルイタリア軒の斜め前にある「天龍」はラーメン界のベスト8に入るとか、万代シティバスターミナル1階の立ち食いそばはおいしいとか、そういうことも書いているけど。

椎名目黒、聞いてくれよ。

目黒聞くよ、なに?

椎名各地域のブロック予選を勝ち上がった麺が最後に激突して日本1を決めるわけだよ。

目黒うん、これはそういう企画だよね。

椎名おれは「川柳」のワンタンメンを優勝させたかったんだよ。

目黒酒田のワンタンメンね。

椎名でも、みんなの反対に合って優勝できなかった。おれ、審査委員長なんだぜ(笑)。

目黒ベスト4にも入ってないよ。ちなみにベスト4を書いておくと、


1位 沖食堂の支那うどん(福岡県代表)
2位 さぬきうどん(香川県代表)
3位 浅草ざるそば(東京B代表)
3位 シラタキ・糸コン(群馬県代表)。

カラー写真付きだからどれも美味しそうだね。ベスト20に残ったやつは全部美味しそうだよ。椎名推薦の酒田のワンタンメンもベスト20に入っているし、オレが好きな名古屋の味噌煮込みうどんもここに入っている。

椎名でも優勝させたかったなあ。このあと、海外編をやろうかという話もあったんだけどな。

目黒それは大変だよね。

椎名うん、実現は難しいな。

目黒この本でいちばんケッサクなのは、椎名が「ぼくはそれほど味がよくわかるというわけではない」と書いていること(笑)。おいおい、そんなやつが決めるのかよって。

椎名あくまでも私見だよな。

目黒でもそれがいいよね。味に深みがあるとかエラそうに言われても困るよな。

椎名「麺の甲子園の歌」を読んでくれた。これ、おれ、気にいっているんだけど。

目黒あのさ、ずいぶん昔、怪しい探検隊の遠征参加メンバーに椎名がパンフレットを出発直前に送っていたでしょ。あれに「探検隊の歌」が載ってたよ、いま思い出したけど。もちろん椎名の作詩。すっごくくだらねえやつ(笑)。『わしらは怪しい探検隊』の角川文庫の解説に、それ、引用したよ。つまり、昔からずっと同じことをしているんだね。

椎名本当かよ(笑)。

目黒その怪しい探検隊のパンフレットで思い出したけど、注意事項がきちんと書かれていて、水着を持ってくることとかね、その末尾にいつも「帰ろうと言わないこと」ってのがあった。着いた途端に言うやつが結構いたってことだよね(笑)。

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