『活字の海に寝ころんで』

目黒次は『活字の海に寝ころんで』。岩波の「図書」に連載して、2003年7月に岩波新書で刊行。これまで岩波新書で、『活字たんけん隊』『活字のサーカス』に続く3冊目ですね。これもあまり話がない(笑)。ええと、どうしようかなあ。そうだ、ペミカンってなあに?

椎名う?

目黒山の本を読んでいるとしばしば「ペミカン」というものが出てきて、それが気になっていたというんだけど、それが具体的に何なのかが書いてない。「食い物なのだが、岩登りの途中などでよくそれをひっぱり出して食っている話が出てくるので行動食、非常食のようなものだろうということは見当がついた」というんで、食い物というのはわかるんだけど、具体的にどういうものであるのかがわからない。

椎名ペミカンか。いろんなものを自分で小さく切って煮込むんだ。

目黒なにを?

椎名なんでもいいんだよ。いまはいろんなものが非常食として売っているから、昔の話だよね。売ってないから自分で非常食を作るしかなかった。

目黒ふーん。漂流記の傑作古典ベスト3として、『フラム号漂流記』『エンデュアランス号漂流』『コン・ティキ号探検記』をあげているけど、これはいまでも変わらない?

椎名そうだな。それは永遠の名作だから。

目黒『無人島に生きる十六人』を椎名は絶賛してるよね。たとえば、この本については「内外の無人島物語の中では、日本のこの顛末記が勇気と感動に満ちたいちばんの傑作である」と。これ、すごい賛辞だよね。内外のベスト1ということだからね。

椎名その話を少ししておこうか。無人島物語をいっぱい集めていたときに講談社から戦前『無人島に生きる十六人』という本が出ていたことを知って、それで読んでみたら面白いんだ。ヴェルヌの『十五少年漂流記』がおれは好きなんだけど、これは『十六おじさん漂流記』なんだよ。ただ、すごく面白いんだけど、島の名前が書いてない。で、調べても戦前だから秘密にしていたんだな。で、あまり面白いんで新潮文庫にいれたら、おれの本より売れているんだ(笑)。そうだ、漂流記に共通することって何だか知ってるか?

目黒食料の調達かな?

椎名そう。食料をめぐる争いだな。

目黒そうだ。かつお節の起源がモルジブにあるって話は面白かった。

椎名沖縄に鰹節があって、それがどうやらモルジブから伝わったものらしいと聞いて、モルジブまで行ったんだよ。で、モルジブでかつおを釣って、その場で刺し身にしてたべたら、モルジブの人が気持ち悪そうにこっちを見るんだ。向こうの人は生の魚なんて食べないから、なんて野蛮なやつって思われたんだろうな(笑)。モルジブでは釣ったかつおは干すんだけど、黴をつけてこちんこちんに固くするわけではなくて、生利節だな。そのやわらかい状態のものを小さく切ってカレーにまぜて食べる。

目黒出汁じゃないの、具なの?

椎名そう。日本のように、カンナで鰹節を削り、それをスープの出汁にするというものではない。

目黒なるほど、違うんだ。それとね、椎名が電子レンジの料理に目覚める話のところで、村上祥子・中山庸子『電子レンジで朝ごはん』という本が出てくる。そこで「バター梅ご飯」が紹介されるんだけど、これは美味しそうだね。「茶碗一杯の冷やご飯を電子レンジで一分間加熱し、そこにバターと梅干しを乗せる。青海苔を少々振りかけ箸でほぐしながら食べる」というもの。

椎名それ、東海林さだおさんがはまって、おれに教えてくれたんだ。

目黒おれ、料理をしていたころ村上祥子さんの電子レンジ・レシピ本は全部読んでたけど、この「バター梅ご飯」は知らなかったなあ。魚の干物を電子レンジで焼く方法も、村上祥子さんの本で学んだよ。

椎名干物が電子レンジで焼けるのか。

目黒すっごい便利だぜ。

椎名ふーん。

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