『いっぱん海ヘビトンボ漂流記』

目黒それでは『いっぱん海ヘビトンボ漂流記』です。本の雑誌の「今月のお話」をまとめたものですね。2003年4月に本の雑誌社から本になって、2014年2月に角川文庫に入ったときに『いっぽん海まっぷたつ』と改題。これまでの、本の雑誌社→角川文庫で改題、というパターンのなかではそんなに悪いほうではないけれど、これは元版のタイトルのほうがいいと思う。

椎名内容はばらばらだろ?

目黒ようするに「今月のお話」だから、一つのテーマで書かれたものではない。でも面白かったのは、途中に椎名とおれの対談が何本か収録されていて、それが結果的に息抜きになっている。

椎名ふーん。

目黒この本が出たのはおれがやめてからだから、本の製作にはタッチしてないけど、連載中はまだ発行人だったのかな。椎名がよく締め切りをすぎてから電話をかけてきて、原稿を書けない言い訳をしばらく聞かされて、そんな暇があるなら書けよと言いたいんだけど、いま喋ったことを対談で載せてくれってことが何度かあった。つまり、でっちあげ対談だね。それが本に収録されてみると、いいアクセントになるのは意外だった(笑)。まあ怪我の功名というやつだけどね。

椎名対談も無駄じゃなかったということだ。

目黒どうかなあ。ところで、この本の中に、北海道から関西までは日本酒がメインで、九州に入ると焼酎文化圏で、中国・四国は日本酒と焼酎が入り交じる。沖縄は完全に泡盛という記述がある。焼酎と泡盛はどこがどう違うの?

椎名泡盛は、タイ米を黒麹を使って発酵させ蒸留酒にするものだよ。焼酎とは全然違う。

目黒ふーん。九州は焼酎文化圏とさっき言ったけど、焼酎にもいろいろあるだろ。その違いは?

椎名南のほうはイモ焼酎だな。

目黒鹿児島あたりね。

椎名そうそう。大分は麦だ。

目黒そういえば、鹿児島料理の店が高田馬場にあって、おれがいくまでその店に麦焼酎は置いてなかったの。おれ、イモがだめだから、麦をおいてもらうようになったけど。

椎名なんでイモがだめなんだ?

目黒匂いがなあ。

椎名ふーん。

目黒そうだ。新宿のカメラ屋の中古品コーナーで、ドイツ製のアンジュニーというズームレンズが目にとまるというくだりがこの本のなかに出てくる。それは売り物ではなくて、レンズ光軸を直すために預かったものだと聞いて、そのコレクターに椎名がすぐに会いに行くんだけど、こんなこと、椎名もするんだと驚いた。

椎名お前ねえ、ドイツ製のアンジュニーだぞ。

目黒そう言われてもわからないんだけど(笑)。このときは意気投合して話し込むんだけど、その後もその老人とは会ったの?

椎名結局、そのドイツ製のアンジュニーを売ってもらった。

目黒あっ、そうか。最初からその気持ちがあったのか。出来れば売ってくれないかと。

椎名そういう気持ちがまったくなかったといえば嘘になる(笑)。

目黒それとね、山田和さんの『インド不思議研究』という本を読んでいたら、地球一軽いブリキのトランクという項目があって、安くて頑丈で大変なスグレモノであると書いてあるのを見て、椎名がしまったと思うくだりがある。カトマンズの路地裏でそのブリキのトランクをみかけた時、しばらく迷って買わなかったことを思い出すわけだ。その値段が525円というんだから迷ったら買えばよかったのに。

椎名でも、ブリキだぞ(笑)。

目黒それと福岡の出版社から出ていた隅田川乱一の『穴が開いちゃったりして』という本を読む話が出てくる。この本を読んで、隅田川乱一さんが肺癌で他界していたことを初めて知ったという話なんだけど、おれも知らなかったよ。本の雑誌に原稿を書いてもらったのは本当に初期のころだったからね。

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