『いまこの人が好きだ!』

目黒ええと、次は『いまこの人が好きだ』。小説新潮に連載した「今月の拍手絶賛パチパチ人間」をまとめたもので、新潮社から刊行されたのが1983年。その3年後に新潮文庫に入っている。『男たちの真剣面白話』とほぼ同じころですね。つまりデビュー直後。こちらは対談ではなく、椎名がいろいろな人に会いに行って、それをすべて文章で書くという形式だね。ええと、正直に言うと、いま読むとつまらない。

椎名やっぱり遠慮してたからなあ。

目黒対談のときよりも媚びるニュアンスは若干薄まっているけど、遠慮していることに変わりはないからね。

椎名そうだな。

目黒ここに出てくるのは、山下洋輔とか東海林さだおとか、『男たちの真剣面白話』とだぶる人もいるんだけど、こちらは1本ずつが短いから人数が多い。野田知佑もいる。まだ野田さんがそれほど有名じゃないころだよね?

椎名「日本の川を旅する」を旅に連載してたころだね。とても興味があったので会いに行った。

目黒精神科医の中澤正夫さんも無名のころでしょ?

椎名そうそう。

目黒「江戸の粋を守り継ぐ火消し三代目」の山口政五郎さんにも会いに行ってるぜ。

椎名それは編集部のリクエストだろうなあ(笑)。

目黒編集部のリクエストってわかるね。たとえば、「ゴーカイ陽気な女一代ハンドル人生」の山野辺ミヤ子さんとか、「純度一〇〇%演歌人生まっしぐら男」の大山高輝さんとかは、明らかに椎名の選択じゃなくて編集部の選択とわかるよ(笑)。

椎名こういう人はどうですかって提示されるわけだ。

目黒柿谷誠さんもいる。家具職人といっていいのかな。

椎名沢野が一時期、家具にはまっていたのは柿谷さんの影響だな。

目黒大勝軒のおやじも登場するし、八丈島の山下さんも登場する。

椎名有名人から無名人まで、ごちゃまぜだね。

目黒対談とは違って、そんなに読んでて辛くはないんだけど、これ、別に椎名でなくてもいいよね。

椎名そうだなあ。

目黒このあと、こういう仕事、やった?

椎名一度もやってない。おれには向いてないよ、第一、面倒だし。その点では対談と同じだな。

目黒でもさ、自分に合ってないから面倒と感じるんだよ。というのは、椎名も結構面倒なことをしてるぜ。

椎名たとえば?

目黒だって、このあとに出てくるけど、シベリアに行ってるじゃん。あんな寒いところに行くなんて、オレ、絶対にいやだな。

椎名旅はいいんだよ。全然、面倒じゃない。

目黒旅もので資料を読み込まなければならないやつだってあるよ。なんだっけ? ほら、大黒屋光太夫を追っていくやつ。あれ、旅ものだけど資料も読まなければならないだろ? やっぱり面倒だよ。

椎名そうかなあ。

目黒向いている人は面倒と感じないってことだと思うよ。

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