『ごっくん青空ビール雲』

目黒それでは『ごっくん青空ビール雲』です。週刊文春2009年2月19日号〜2010年3月18日号に連載し、2011年5月に『ごっくん青空』の書名で文春から刊行し、2013年10月に『ごっくん青空ビール雲』と改題して文春文庫と。ええと、赤マント・シリーズの22弾です。面白いのが冒頭の夢の話。

椎名なんだっけ?

目黒SF関係者と和室の宴会場にいたとき、尿意が襲ってきたのでトイレにいくの。で、ズボンのチャックに手をかけたときに、じゃあじゃあと小便をまき散らしながら入ってくる男がいて、こらあと怒ったところで目が覚めた(笑)というんだよ。

椎名それ、夢の話だろ?

目黒そうだけど。

椎名そいつのおかげで目が覚めたから、寝小便しなくて済んだんだよ(笑)。

目黒心理的なブレーキというやつなんだろうけど、じゃあじゃあと小便をまき散らしながら男が入ってくるというシチュエーションでなくてもいいと思うんだよ。何か他の状況でもいいのに、よりにもよって小便まき散らし男とはね(笑)。

椎名夢なんだから仕方ないだろ。

目黒しかも「SF関係者と和室の宴会場にいた」という状況設定がある。そんなところにいたことないでしょ?

椎名一度もないけど、夢なんだから。

目黒あと面白かったのは、妻とメールのやりとりをするところで、しばらく五・七・五に凝っていたというくだり。これ、実話なの?

椎名そうだよ。

目黒いくつか実例が紹介されているんだけど、いちばんのケッサクは、


「家でめし 言って出たけど 遅くなる」
「せっかくの トロかつおなり 明日はなし」

この夫婦に座布団をあげたいね(笑)。この項には「五・七・五社会」と見出しが付けられていて、妻とメールのやりとりをする話から始まって、五・七・五伝達方式がひろまれば悪口も明るくなる──というわけで一句。

「スダレハゲ あれでもスーツは 英国國屋」

こういうふうに展開していく。絶品の回だよ。でもさ、妻とのメールのやりとりを五・七・五でするのって、結構大変だよね。考えなければならないでしょ。あんまりつまらない五・七・五じゃ恥ずかしいし。

椎名そうだな、字数の割りに手間がかかる(笑)。

目黒あとは細かな話がいくつかあるんですが、まず「県別相性問題」。京都がいちばん相性が悪いって書いているんだけど、これ、意外だった。結構行くんじゃないの?

椎名最近は滅多に行かないよ。

目黒じゃあ、いちばん多く行くのはどこ?

椎名青森だな。

目黒それは北が好きってこと? 沖縄へもよく行くよね。

椎名端っこがいいんだよ。写真を撮るのにも。ドラマチックだから。

目黒それとね、知り合いの文芸評論家が三カ月くらい前に見たときの半分になっていた、と出てくるんだけど、半分にはなってねえよ(笑)。ダイエットして10キロやせたときだから。

椎名はは。

目黒あと、これはひどいね。東京駅の人の通らない階段で本を読んでいたら、ここへ座ってはいかんと警備員に注意されたときの話。しかも、すぐにここから出ろと。

椎名家にハイヤーが迎えにきて、なんと1時間も早く東京駅に着いちゃったんだ。

目黒おれ、いつも不思議なんだけど、早い新幹線に切り換えて乗ればいいじゃん。

椎名だって一緒にいくやつを待たなければならない。

目黒あ、一人じゃないんだ。

椎名写真を撮る旅だから荷物が多いんだよ。それでよれよれの恰好だから、ホームレスと間違えたんだろうな。

目黒そういうときに椎名は反論しないの? 

椎名誰にも迷惑かけてないじゃないですかって言っても、東京駅では座ってはいかんと、最初から敵意丸出しだからね。出ていけと睨むんだ。

目黒怒らないの? 殴り合いになったらまずいけど。

椎名面倒だからな。黙って立ち去る。

目黒東京駅の警備員諸君に、それでは言っておきましょう。階段で寝ているならともかく、ほとんど人の通らないところで静かに読書している者の邪魔はするなと。

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