『ナマコ』

目黒ええと、『ナマコ』です。これは「イン・ポケット」に連載したやつなんですが、正確に言うと、


2003年10月号〜2004年5月号
2005年8月号〜11月号
2006年3月号〜5月号

と断続的に連載している。で、講談社から本になったのが2011年4月。連載が終わってからなんと5年後。これ、椎名としては珍しいよね。ゲラまで出ていたのに放っておいたというんだけど、どうして?

椎名本にするようなものじゃないと思ってたんだ(笑)。

目黒いや、面白かったよ。なんでもない話だけど、こういうのはいいよ。『モヤシ』の続編で、飲み屋「呑々」が舞台となって、店主の小田さん、常連客のなかでいちばん古株の大声のハリさん、カオル印刷会社の社長をしている針木さんとか、『モヤシ』に続いて登場する。飲み屋「呑々」は池林房だろうし、小田さんはトクちゃんなんだろうけど(笑)。今回は小田さんと北海道に「うまいコンブ」を探しにいく話。これが前半で、後半は香港にナマコを食べにいく。これ、全部実話をもとにしてるの?

椎名だいたいな。

目黒香港にはこのためだけに行ったの?

椎名そうだよ、担当の土屋さんと嶋田さんとヒロシとトクちゃんの5人で行って麻雀してきた(笑)。

目黒本にするようなものじゃないと思ってたわりには、ずいぶん経費使ってるね(笑)。あのさ、酒の肴のベスト3は「ウニ・ホヤ・ナマコ」とここで書いていて、コノワタはこのベスト3の上を行くっていうから、これが酒の肴の究極のベスト1になるってことだよね? ええと、「ナマコを裂いてコノワタを取り出し」とあるから、コノワタって内臓かなんか?

椎名腸だよ。

目黒おれ、ナマコがだめだから、コノワタもだめだな。

椎名酒の肴の究極のベスト1は、コノワタでもないよ。もっと上がある。

目黒なに?

椎名「バクライ」ってのがある。

目黒ちょっと待ってよ、そんな話、この本に書いてないぜ。酒の肴のベスト3は「ウニ・ホヤ・ナマコ」で、その上をいくのがホヤであると、ここまでは書いているけど、さらに上をいくのがあるなんて、書いてないよ。なに、その「バクライ」って?

椎名コノワタとホヤを混ぜてつくる漬物だな。これはうまいよ。

目黒へー。

椎名「バクライ」って黒鉄ヒロシさんが名付けたものだから通称ということだな。滅多に食べられない。

目黒ちょっと待ってね。ナマコって旬の季節ってあるの?

椎名特にないな。

目黒ウニは1年中あるよね。

椎名ホヤは夏だ。だから「バクライ」は夏の食べものということになる。

目黒あとは細かい話になるけど、北海道の漁師町の雀荘で麻雀する場面で牌活字を使っている。最近は麻雀小説が少ないので、牌活字を見るとちょっと嬉しくなる(笑)。関係ない話だけど、中国の古典文学に、牌活字が出てくる作品があるんだよ。

椎名へー。

目黒ずいぶん前に本の雑誌で紹介したことがある。ところでこの漁師町の雀荘の場面で、ゴミ箱と洗面器に金を入れるシーンがあるけど、すごいよねこれ。ゴミ箱が万札で、洗面器が1000円札。現金勝負だからそこにばさばさ金を入れていく。いかにも漁師町らしい光景だね。

椎名その金入れが、また派手な色をしてる。

目黒そうそう、ええと、ゴミ箱が緑色で、洗面器がピンク。

椎名下品でいいだろ(笑)。

 

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