『やぶさか対談』

目黒次は『やぶさか対談』です。小説現代に連載した東海林さだおさんとの対談集で、2000年12月に講談社から刊行されて、2005年5月に講談社文庫と。これは面白かったです。というのは、収録10本のうち、7本がゲストを呼んでいる回なんですが、これがだいたい面白い。ダントツは大江健三郎の回。

椎名ああ、あれは覚えている。

目黒高額所得者番付で、いかり屋長介と同額だった年があり、それ以来親近感を抱いているとかね、まるでイメージが違うんで驚くよ。そういうことを思ったり発言する人ではないと思っていたから(笑)。

椎名このときの大江さんはすごかったよ。喋りっぱなし。

目黒ノーベル賞を貰った年は、自分が11位で、志茂田景樹が10位だったとかね、そういう世俗的なことに関心を示さないっていうイメージだったので、まずこのあたりで驚くんだけど、なにりも凄いのは、「女性を抱きしめるときは尾てい骨の上から三番目の関節を押さえれば、それがもっとも理想的な抱きしめ方である」と、伊丹十三が教えてくれたというくだり。若いときに教えてくれたと。大江健三郎と伊丹十三は松山東高校の同級生ですから、そのころなのか、もう少しあとなのか。で、大江さんはそれをずっと覚えていたんだけど、結婚しても向かい合って抱きしめるという機会は我々のような古い日本人にはなかなかないと。それがあるとき、ヨーロッパのホテルに夫婦で行ったんですね。スイートの小さな部屋に泊まって、これはあれを確かめるいい機会だと。ここで椎名が「お〜お」と発言しています(笑)。

椎名お〜お。

目黒で、右腕で妻の肩をつかまえて、左手の小指で尾てい骨を探る。そして心の中で「一、二」と数えて、三番目の関節を押さえようとした瞬間、妻が「三!」って言った(笑)。大江健三郎の奥さんは伊丹十三の妹だから、たぶん伊丹十三から聞いていたんだろうね。このオチは素晴らしい。

椎名大爆笑したなあ。

目黒おれは大江さんのいい読者じゃないからよく知らないけど、この話はおそらくエッセイでも書いていないんじゃないかなあ。傑作だよね。この対談集は全体的に面白いんだけど、この大江さんをゲストに呼んだ回がダントツに面白いんで、他の回がかすんじゃっている。つまらないのは、沢野がゲストの回だけだね。前回、沢野をゲストに呼んで、女性の口説き方を聞くっていうのがあったでしょ?

椎名あったあった。

目黒あれはすごく面白かったけど、あれに比べれると、今度はつまらない。でも他は面白いよ。ドクター中松とか、鈴木その子さんとか。個人的には、川口隆史の回がいい。

椎名どんな人だっけ?

目黒包丁を売る人。

椎名ああ、あの人か。包丁だけではなくて、いろんなものを売るんだよ。

目黒実演販売人。専門家の話ってやっぱり面白いんだよ。我々が気づかないことを教えてくれるんだ。人が寄ってきてもすぐには売らないとかね、コツがちゃんとある。この穴空き包丁って、椎名はその後も使っているの?

椎名どこかに行っちゃったなあ。

目黒これを読むと欲しくなるぜ。あとは関係ないけど、JRの切符を買うのにまごつく話が出てくるよね。椎名って電車に乗らないの?

椎名このころはスイカだかまだない頃だったから、券売機で買うんだけど、お金を入れるとぱっとついてさ、ヘンなところを押すと英語表記になったりして、難しいんだ。

目黒いまはスイカを持ってるの?

椎名いまは持ってるよ。

目黒全国で使えるようになったからいまは便利だよね。少し前に博多で使えるようになったときは感動したもの。名古屋でも大阪でも使えないのに、博多で使えるって時期がしばらくあったんだけど、羽田から福岡まで行ってさ、空港から地下鉄に乗るときにスイカが使えるってすごいなと。行くたびに感動してたな。

椎名旅嫌いのお前がなんで何度も福岡に行くんだ?

目黒毎年夏に小倉競馬場に行ってるから(笑)。

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