『沢野字の謎』

以下の本文ではすでに正しく訂正してありますが、『沢野字の謎』が在庫切れという発言は誤りでしたので撤回いたします。
当該の本は発売以来一度も在庫を切らしたことがなく、発言者(目黒)の誤りでした。間違った情報をあげてしまったことを深くお詫びします。

目黒次は『沢野字の謎』。2000年の10月に、本の雑誌社から刊行したもので、全部語りおろし。少しだけ説明しておくと、この年、本の雑誌の創刊25周年ということで、4大都市でイベントをやったんだよ。20周年のときもやったし、その他にも各地で何回かやったんで、どこでやったのかごっちゃになっているから正確な都市名は覚えていないんだけど、このときは札幌、名古屋、大阪、東京だったかなあ。その楽屋で座談会を収録したの。

椎名そうだっけ?

目黒せっかく4人が集まるんだからもったいないと。でもイベント終了後は打ち上げの飲み会だから、まともな座談会はできない。じゃあ、公開座談会が始まる前に各会場の楽屋でやればいいんじゃないかと。どうせ公開座談会は何の打ち合わせもないんだから、1時間前に会場にいってもやることがない。そのときに発作的座談会をやってしまおう、というわけだね。これは傑作ですね。沢野の絵の横についている意味不明のコピーを並べ、その意味を考えながら、最強のコピーを決めようという発作的座談会の番外編。この前に『沢野絵の謎』があるんだけど、こちらのほうがダントツに面白い。埋もれた傑作だよ。

椎名どうして埋もれちゃったんだ(笑)。

目黒おれはずっと反省しているの。このタイトルはよくなかった。もともと『磯野家の謎』が売れていたんで(笑)、『沢野絵の謎』という書名にして、その続編だから今度は『沢野字の謎』。すごく安易だよねえ。これじゃ、意味がわからない。

椎名どういうタイトルがいいんだ?

目黒「階段のあかりをつけたら妻がいた」。このほうがよかったなあ。

椎名なるほどな。、

目黒最初から説明すると、沢野が本の雑誌の表紙のためにいつも意味不明のコピーを書いていたんだけど、ボツのコピーもたくさんあるんだよね。その採用不採用コピーを全部集めて、最強コピーを決める座談会ですね。トーナメントで戦っていくんですが、妻ものとか動物ものとか地区予選をまず戦って、それで勝ち上がっていく。各会場の楽屋で、沢野のコピーをずらずら並べて、1時間立ちっぱなしで地区大会から決勝まで戦ったのを覚えているなあ。

椎名沢野の書き文字をそのまま載せているんだねえ。

目黒これが味があるよな。太かったり細かったり、臨場感がある。これ、活字にしたらたぶんつまらないと思う。面白いのは、たとえば木村さんが、これはこういう意味じゃないかなあって言って、目黒が「おれは木村説に賛成」って言うと、沢野が「おれも木村説」って言うのさ。すかさず椎名が「お前が作者なんだから、説をたてるな」って怒るの(笑)。

椎名いかにも沢野らしいな。

目黒読み返してみると、最強コピーが決まったあとに「戦いを振り返って」という座談会が40ページもついている。細かなことは忘れているけど、たぶん決勝戦までだけでは一冊にならなかったのかなあ。面白いのは、どうしてこの地区でこのコピーが勝ち上がれなかったんだろうって発言が多いこと。つまり1カ月に渡って毎週収録してきたから、最後のほうになると、以前のことを忘れているんだね。

椎名忘れるなあ。ところで決勝戦で勝ったのはどんなコピーなんだ?

目黒それが最大のミソだろうから、それは言えない。はい、これです。

椎名意味がよくわからないなあ(笑)。

目黒一冊読んでもらえれば納得していただけると思う。発売以来一度も在庫を切らしたことがないから、読者にも支持されているということだよね。タイトルは失敗だったけど、中身はびっくりするほど濃い。私が発行人をつとめた25年間で、いちばん好きな本。

椎名ほお、そこまで言うのはすごいな。じゃあ文庫版元を探そうか。

目黒あのね、犬部門のコピーを幾つか並べてみようか。


「水しぶきをあげて犬がやってきた」
「陽気な犬でもう大変」
「話し合ってもうなずかない犬」
「精神的に犬に負けた」
「身近な犬に話しかけなさい」

なかなかいいコピーが多いでしょ。この中から犬地区を勝ち上がったコピーは何か。

椎名むずかしいな(笑)。どれも捨てがたい(笑)。

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