『くじらの朝がえり』

目黒それでは、『くじらの朝がえり』です。週刊文春の1998年10月から1999年7月まで連載されて、2000年3月に文藝春秋から本になって、2003年4月に文春文庫と。赤マントの11冊目です。前作の『とんがらしの誘惑』が10冊目で、それを記念して東京と大阪で、読者招待の関係者公開座談会をやったと出てくるんで思い出した。椎名、沢野、木村、目黒の4人に、嵐山光三郎さんが出席した会なんだけど、大阪のときに公開座談会が終わってから椎名たちは船上パーティーに行ったのね。よく覚えていないんだけど、読者を何名か招待した船上パーティーだったんじゃないかなあ。でも、おれは座談会が終わるなりすぐに京都に行った。

椎名なんで京都へ行ったんだ?

目黒その時間に新幹線に乗らないと京都へ行けないんだよ。いや、せっかく大阪に行くのなら翌日、京都競馬場に行こうと思ってさ。もちろん主催者の了解を得て行ったんだけど。それを思い出した。

椎名なんだ。

目黒あとこの本で面白かったのは、日本の美人産地は、日本海沿いにほぼ1県置きの説があるという回。カッコでくくった県が美人産地だというんだけど、そのくだりを引用すると、「蝦夷」青森「秋田」山形「越後」富山「加賀」福井「京都」島根「出雲」山口「博多」佐賀「長崎」鹿児島「琉球」、と微妙に1県置きじゃないところもあるのがおかしいね。どこで聞いたのこの説?

椎名さあ、忘れた。

目黒あとは、カーナビゆうこの話。これは以前も読んだエッセイで面白かったけど、カーナビの声って全部女性の声なの?

椎名そうだよ知らないのか。

目黒知らない。じゃあ、その声って機械の合成音? それとも誰かが、たとえば役者が吹き込んでるの?

椎名役者の卵がやってるんじゃないかなあ。あれ、地域によって違うんだぜ。

目黒えっ、どういうこと?

椎名全国の道案内を一人の人が吹き込んだら大変だろ。だからずっと車に乗っていくと、あれっと思うことがある。違う人が担当する地域に入ると声の主が変わるんだ。

目黒ゆうこじゃなくなるんだ。

椎名ときには、怖い声の人もいる。

目黒怖いって?

椎名そこ曲がりなさいって怒るような口調で言う(笑)。

目黒嘘でしょ(笑)。

椎名本当だって。

目黒あとね、友人のミステリ評論家がコシマキで「共感を持つ」と書いていたので、ピーター・ガドル『長い雨』(ハヤカワ文庫)を買った、と出てくるんだけど、この「友人のミステリ評論家」っておれのことだよね。

椎名お前以外に知らないよ。

目黒でも『長い雨』って覚えてないんだ。ピーター・ガドルって作者も知らないし。

椎名お前、責任持てよ(笑)。

目黒買ったと出てくるだけで、面白かったと出てこないから、つまらなかったのかな。

椎名いや、面白かった記憶がある。

目黒じゃあ、いいじゃん。あとね、屋上でポーカーをしていたころが「思えばわが人生、あの頃が正真正銘の黄金時代だった」と出てくるくだりがある。屋上でポーカーをしていたころって、『新橋烏森口青春篇』で描いたサラリーマン初期の頃だよね。そのころが「わが人生の黄金時代」だったというんだけど、椎名の著作にそのものずばりの『黄金時代』があるよね、あれは高校時代を描いた小説だったけど、もうおれたちの歳になると、過ぎ去った季節がそうやって高校時代からサラリーマンのころまで、全部黄金時代に思えてくるってない?

椎名そうだな。

目黒そのときは黄金時代だなんて全然思ってもいなかったのにね。むしろいらいらしたり、不安だったり、何かが欠けているような気がしたりして、なんだかなあって思っていたのに、過ぎ去ってみるとそれが全部愛おしく思えてくる。

椎名不思議だよなあ。

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