『時にはうどんのように』

目黒次は『時にはうどんのように』。赤マント・シリーズの6冊目ですね。1995年11月に文藝春秋から出て、1998年8月に文春文庫と。これはね、面白かった。ほら、こんなに付箋を張ったの久々だよ。

椎名ほお。

目黒赤マント・シリーズはもう感想がないって以前言ったような気がするんだけど。

椎名(笑)。

目黒でもこれはずいぶんたくさんのことが引っ掛かって面白かった。まず冒頭の、二二二回記念の回が面白い。「二」が付くものはあまりいいイメージのものはないと言って、「二流」「二束三文」「二重帳簿」「二重売買」「二度手間」「二重顎」と並べるわけ。それに比べて、「一途」「一生懸命」「一念発起」「一心不乱」「一徹」「一匹狼」「一番弟子」「一部上場」「一攫千金」と、「一」のつくものはだいたいいいと言うんだけど、「二」のつくものでもいいイメージのものはあるんだよ。たとえば「二枚目」とかね。こういうものは意図的に外している(笑)。これがまず面白かった。

椎名傾向がはっきりしたほうがいいんだよ(笑)。

目黒はい、それではここで問題です。この本のなかで、椎名が非魚部門の刺し身ランキングを選んでいるんですが、そのベスト5は何か?

椎名非魚部門?

目黒そう。

椎名コンニャクかな。

目黒コンニャク? このベスト5を選んだのは1994年なんで、その後20年もたっているから好みが変わるってことはあるか? じゃあ、いまの好みでもいいよ。ベスト5を言ってみてくれる?

椎名竹の子、コンニャク、馬、鯨──そのあたりか。

目黒1994年の1位は鹿です。

椎名ああ、食べたなあ。

目黒2位が馬で、3位が鯨。

椎名あとは?

目黒4位が地鶏で、5位が山羊。

椎名山羊は八丈島で食べたんだよ。

目黒1994年の刺し身総合ランキングも載っているんだけど、このベスト15を全部クイズにすると時間がかかっちゃんで、ここには1〜5位をあげておこう。①カツオ②八角③北陸の鯖④赤ガレイ⑤鹿、というのがベスト5です。鹿は総合でも5位だよ。

椎名ふーん。

目黒3位の「北陸の鯖」って何?有名なの?

椎名そのころ食べて、うまかったんだろうなあ。

目黒おやっと思ったのが、新宿二丁目を歩いていて、おばさんに声をかけられて横町のバーに行くくだりがある。麻雀をやったあと冷たいビールが飲みたかったと言うんだけど、これ、珍しいよね。で、そのバーの常連さんたちと楽しく飲んで帰ったというの。

椎名明確には覚えてないなあ。

目黒あと、福岡の中州の屋台で「三十半ばぐらいの、おとがいのつんととがって、色の白い女が、もうまったくの博多弁で、十歳ぐらい若い、いかにも水商売ふうの男を徹底的に怒っていた。その怒っている顔と、いちずな怒り方がとてつもなく魅力的だった」と書いているんだけど、これは椎名が好きな方言のベスト1にいつも選ぶ博多弁がよかったのか、それとも怒っている状態がよかったのか。

椎名全体だな。博多弁もいいし、その激しい怒り方もいい。オレも怒られたかったよ(笑)。

目黒それと、『無人島に生きる十六人』という本の話が出てくる。昭和二十七年に講談社から出た「少年少女評判読物選集」の1冊として刊行されたもので、書かれている話は明治三十一年の出来事だっていうんだけど、これ、面白そうだよねえ。その後、文庫にならなかったの?

椎名目黒、よく聞け。

目黒聞いてるよ(笑)。

椎名講談社の知り合いにその本を借りて読んだら面白いんだ。中年のおじさんたち十六人が南洋の島に漂着して、そこでサバイバルして生き抜く話で、いま読んでも面白い。で、旅に出たときに新潮社の編集者とその話になって、おれがコピーしたその本を貸したんだよ。そうしたら、遺族を捜し出して、再刊の許可を貰って、文庫になった。

目黒新潮文庫になったんだ。解説は椎名が書いたの?

椎名そう。

目黒読みたいなあ。

椎名ずいぶん売れたらしいぜ。今年の夏の100冊に入ってるよ。オレの本は夏の100冊に入ってないんだけどな(笑)。

目黒それ、書いていい?(笑)。

椎名いいよ(笑)。

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