『椎名誠写真館』

目黒次は『椎名誠写真館』。これは1995年6月にアサヒカメラの増刊号として出て、同年12月に朝日文芸文庫に入ったものです。あれと似てますね。「椎名誠の増刊号」と題して刊行されたムックが、のちに『自走式漂流記』と題して新潮文庫に入ったパターンと酷似している。「自著を語る」の中では「この本はかつて写真家をめざしたぼくとしては、とてつもなくうれしい企画であり、つくるのにかなり燃えました」と語っている。これさ、文庫にするときに文章とか写真をかなり足しているの?

椎名足しているんじゃないかなあ。

目黒以前の写真集でみかけた写真もあれば、初めて見る写真もある。たとえば、文庫版の212ページに、葉ちゃんと岳が縁側に立っている写真が載っているけど、これ、初めて見た。このころの葉ちゃんって、椎名にそっくりだね。

椎名そうだなあ。

目黒「うみ・そら・さんごのいいつたえ」に出演した犬のワンサが上目遣いにカメラを見ている写真は前にも見たけど、何度見ても可愛い。あとは、イリオモテ島の写真で、3人の少年が並んでいる写真は覚えているよ。真ん中の少年がちんちんを出して笑っているやつ。

椎名その写真を撮ってから十年後くらいに、那覇の空港で見知らぬ青年に声をかけられたんだよ。椎名さん、覚えてますかって。

目黒えっ、何の話?

椎名そしたら、イリオモテ島で撮った3人の少年の一人で、「ぼくがちんちん少年です」って。

目黒あら。3人並んだ、真ん中の少年が成長して現れたんだ。

椎名喜んでたよ。いい写真を撮ってもらったって。いい青年になっていたなあ。

目黒7歳の少年も10年たつと17歳だからね、それはずいぶん変わるよね。本人にはとてもいい記念になるんじゃないかなあ。

椎名その島にはつい最近もまた行ったんだ。その村の住民は当時も50人で、いまも50人。

目黒えっ、変わらないの?

椎名ちんちん少年が島を出ていったように、大きくなるとたいていは沖縄に出る。でも次々にまた生まれてくるから人口は変わらない。時間はゆったりと流れていたなあ。

目黒文庫版37ページのモンゴル犬の写真は初めて見るなあ。「成長すると狼のように獰猛な大型犬になるモンゴルの犬も子犬のときは何をしてもかわいいのだ」とキャプションが付いているけど、これ、かわいいなあ。一匹が大きく口を開けて、もう一匹がその顔に顔を寄せて、まるでなにやら話しかけているような感じ。

椎名モンゴル犬は狼よけのために遊牧民が飼う犬だから、それは獰猛だよ。

目黒こんなに可愛いのに。

椎名草原の向こうにゲルが見えるから訪ねていくだろ。そうすると、草原の中からものすごい吠え声とともに、この犬たちが突進してくるんだ。もろに敵意まるだしだから、結構こわいよ。ところが、ゲルから遊牧民が出てきて、「うるさい」って叱ると、犬どもはぴたっと吠えるのをやめてそこらに寝ころがるんだ。単純な性格でもあるよ。

目黒ふーん。

旅する文学館 ホームへ