『ネコの亡命』

目黒週刊文春の赤マント・シリーズが今年の春で終わったことに触れていなかったので、ここに書いておこうか。連載開始が1990年の1月4日号からだから、なんと24年間も続いたことになる。ちょっと総括しておこう。あれは一回何枚?

椎名6枚。

目黒それに慣れちゃうってことはある? つまり、6枚の人生に。なんでも物事を6枚で考えるようになるとか。

椎名そうは都合よくならないよ(笑)。

目黒だよな(笑)。素朴な疑問なんだけど、24年間も連載していると、これ前に書いたかなあって思うことない?

椎名あるよ。

目黒そういうときはどうするの? 以前書いたかどうかを調べるって現実的には無理だよね。

椎名これは前に書いたかもしれないが、とただし書きをつけて書いちゃう。

目黒読者から、先週の話は前にも書いてましたよとかなんとか手紙がきたことはないの?

椎名そういえば、ないなあ。

目黒赤マントを書いていたときに自分に課したルールとかはないの?

椎名時事ネタ、宗教、女、芸能関係──この4つについては書かないって決めた。

目黒昔、誰かのエッセイで読んだんだけど、タクシーに乗ったときの禁句は、政治、宗教、スポーツだと。最初の二つはわかるけど、スポーツがなぜと思ったら、特に野球だね。巨人ファンの運転手っているだろ。そうすると、今日は巨人が逆転したんですっていきなり話しかけてきたりするの。そういうときに、アンチ巨人ですって言ったら揉めちゃうから、野球に興味がないって言う。

椎名降りるまでの短い付き合いだしな。

目黒ところが、そうすると、えっと絶句したりする(笑)。野球に興味ないやつがいるのかって驚いたりするんだよ。あれには困るなあ。どっちだっていいんだよそんなの。

椎名そうだよなあ。

目黒ということで、『ネコの亡命』にいきます。赤マント・シリーズの第5弾で、1995年3月に文春から出て、1998年に文春文庫と。この本の中で、椎名が「ぼくの好きなSFベスト4」を選んでいる。いまから20年前だけど、このときどんな作品を選んだか覚えている?

椎名『地球の長い午後』は入っているだろ?

目黒うん。あとの3冊、わかる? ええと、これはシルヴァーバーグだよなあ。

椎名あ、『夜の翼」だ。

目黒あとはわからないか。フィリップ・ホセ・ファーマーの『恋人たち』に、ジョージ・スチュアートの『大地は永遠に』。これは何?

椎名破滅SFだよ。

目黒ふーん。でもどうしてベスト4なのかな。ベスト5にすればいいじゃん。

椎名4冊しか思い浮かばなかったんだろうな(笑)。

目黒おれも4冊選ぼうとしたら3冊しか思い浮かばなかった。

椎名なに?

目黒ハル・クレメント『重力の使命』、クラーク『渇きの海』、それに『恋人たち』。

椎名平凡だな(笑)。

目黒何よそれ(笑)。あれから20年たっているんだから、これに足せばなに?

椎名コヴァッチが出てくるやつ。

目黒リチャード・モーガンの『オルタード・カーボン』だ。

椎名あとは『ハイペリオン』『砂漠の惑星』『透明人間の告白』だな。

目黒それで8冊。あと2冊足せばベスト10になるんだけど。

椎名あとで埋めておくよ。

目黒あとは、これバカじゃないかなあ。

椎名(笑)。何だよ。

目黒13時42分発なのに、3時42分発と間違えて東京駅にいくと2時間遅れだったという話。しかもこういう間違いは1度だけではなくて時々するっていうの。確認するでしょ普通は。

椎名12時過ぎるとわからなくなるんだよ。

目黒信じられないなあ。ま、いいや。映画「スターウォーズ」を仕事をさぼって見にいったのは1978年で、会社に戻って「すごいすごい」と大騒ぎしたら、映画学科出の上司が見に行って「なんだ子供だましじゃないか」と鼻で笑ったことを思い出すくだりが出てくるけど、これ、誰?

椎名ほら、○○さん。

目黒ふーん。でもさ、仕事さぼって映画を見にいったんだよね。それなのに会社に戻って大騒ぎするの?普通いけないでしょ、サラリーマンの態度としては。

椎名全然平気だったなああの会社は。

目黒ふーん。

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