『ねじのかいてん』

目黒ええと、『ねじのかいてん』にいきましょう。1989年2月に講談社から刊行された本で、1992年2月に講談社文庫に入りましたが、発表誌はばらばらですね。小説現代5本、小説新潮3本、青春と読書1本の合計9本を収録した作品集。これは文庫版の解説(大森望)を読んでびっくりした。

椎名どうして?

目黒椎名の異世界SFは、その世界がどうやって生まれたのか明確な説明を与えられないことが多いと。その意味ではアメリカSFよりはイギリスSFに近い。だから、椎名がイギリスSFの重鎮ブライアン・オールディスの『地球の長い午後』をオールタイムベストSFにあげるのももっともである──簡単にまとめるとその解説でこう書いている。おれはアメリカSFとイギリスSFの違いをよく知らないんだけど、すごいのはこのあと。この十年ばかり本家のイギリスでもあるいは日本でも、この種のSFはほぼ壊滅状態であったと。それを久々に復活させてくれたのが椎名SFである──と書いたあと、大森はこうまとめている。「だとすれば、九〇年代のいま、椎名誠こそ、イギリスSFの唯一正統な後継者なのかもしれない」。いやあ、びっくりだよね。唯一正統な後継者だったんだって。褒めるときはこのくらい褒めろって見本だね(笑)。

椎名世界のなりたちを書かないのは──。

目黒そんなこと、わからないからだよね(笑)。書かないんじゃなくて書けなかったと。面倒くさいし、難しいし。

椎名書けるわけがない(笑)。

目黒でも結果的にはそれが当時は新しかったということらしい。

椎名わからないもんだ。

目黒たとえば、表題作はいま読んでもすごくいい。喋るトカゲが出てきたりして、不気味な感じが最後まで持続する。どこかに囚われているんだけど、何のために囚われているのかわからない。オチもない。すとんと終わっていくんだけど、これがすごくいい。大森も解説で絶賛している短編だけど、あとは、「水域」は後年SF三部作の中核になる作品の短編バージョンで、当然ながらこれもいい。「パンツをはいたウルトラマン」もいい。

椎名えっ、本当かよ。

目黒いいよあれ。迷うのは、「ニワトリ」かなあ。「故フィリップ・K・ディックを彷彿とさせるど迫力で、現実と幻覚のはざまをみごとに描きだす恐怖小説の大傑作」と大森望は解説で書いているけど、どうかなあ。まあ、ここは譲ってもいいけど、つまり冒頭に収められた四篇はいいと。でも、これ以外はどうか。

椎名あとの作品はおれも覚えてないもの(笑)。

目黒いま再読すると、表題作は超傑作だけど、他は少し辛い作品もあるから、ちょっとばらばらの作品集のような気がする。でもね、四本も面白ければ十分だよ。だってそろそろ四半世紀だぜ。それだけ時間がたってもまだ面白いんだから、立派なもんだよ。

椎名打率で言えば、9本中4本なら、何割何部?

目黒四割四分。

椎名いいか、じゃあ。

目黒わからないのが、講談社文庫版の表4に、「デビュー10年目の記念すべき10冊目」とあること。単行本の10冊目ということはありえないから、小説の10冊目かと思ったんだけど、『岳物語』『続岳物語』をまとめて1冊にカウントしても11冊目なんだ。どういうことなんだろう?

椎名おれに聞くなよ(笑)。

目黒あっ、違うよ。椎名のあとがきだ。ここに「ぼくの本の中では十冊目の小説である」と書いている。あなたが書いたんだよ。じゃあ、いいですか。読み上げますよ。『ジョン万作の逃亡』、『シークがきた』(のちに『雨がやんだら』と改題)、『蚊』、『岳物語』、『フグと低気圧』、『菜の花物語』、『新橋烏森口青春篇』、『犬の系譜』、『ハーケンと夏みかん』、『さよなら、海の女たち』、『ねじのかいてん』の11冊。ね、11冊目じゃん。

椎名『ハーケンと夏みかん』は違うよ。

目黒あっ、そうか。あれ、小説集じゃないんだ。「あやしい探検隊外伝」だった。悪い悪い。

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