『あやしい探険隊 海で笑う。』

目黒次は、『あやしい探検隊 海で笑う』。これは「ペントハウス」「週刊宝石」「ビーパル」「コーラルウェイ」「波」「山と渓谷」に書いたものを集めて、1988年9月に情報センター出版局、1993年10月に三五館、1994年6月に角川文庫と。これは完全にいやはや隊だね。もう過渡期を過ぎて、あやしい探検隊は「いやはや隊」に変貌している。野田知佑さんや水中カメラマンの中村征夫さん、バイクの風間深志さん。

椎名岡田昇もいたなあ。

目黒錚々たるプロの人たちが集まっている。写真家の佐藤秀明さんもいたよね。そういう人たちと一緒に、沖縄に行ったり外国に行ったりする。その記録がこの本なんだけど、これがいま読むと、あまり面白くない。どうしてなのかというと、元祖あやしい探検隊は意味のない旅だったよね。何も目的がなくて、ただ焚き火して帰ってくるだけ。で、オレなんていつも早く帰りたいと思ってた(笑)。何で行ってたのかなあ(笑)。でもね、実際の旅は苦痛でも(笑)、それをエッセイに書くと面白いんだよ。陰気な子安がいたり、にごりめタカハシがいたりするから。このいやはや隊記録はちょうどその反対だよね。たぶん実際の旅は面白かったと思う。でもその面白いことと、エッセイが面白くなるかどうかは別なんだよ。

椎名--。

目黒だって、野田さんのキャラクターをいじることは出来ないよね。椎名がある意味で尊敬している人たちを茶化すことは出来ない。それでも、みんなで何か一つの目的を持っているならまだいい。たとえば、どこかに向かうとか。そうすれば、それはそれで面白いドキュメントになる。ところがみんなが勝手に遊んでいるだけでしょ。ダイビングしたり、バイクに乗ったり。実際にはそれが面白いんだろうけど、気のおけない仲間とダイビングしたりするのはとても楽しいことなんだろうけど、それをエッセイにしてもそんなに面白くならないのは仕方ないよね。

椎名そうかあ。

目黒そうだ、思い出したんだけど、情報センター版も三五館版も、中村征夫との共著になっているのに、角川文庫の奥付は椎名の単独著作になっている。中村征夫さんは「写真」ということになってる。これはやっぱり共著に戻したほうがいいと思う。

椎名なるほどな。

目黒それと、もうひとつだけ。飛島に鮫を見にいく話が収録されていて、これは週刊宝石に書いたエッセイだけど、最初は沢野と中村さんと行って、その三年後に同じ場所にいくことになったとき、沢野は「おれは行きたい山があるんだ」と今度は断るのね。で、スイスのアイガーで氷の斜面を百五十メートル落ちて大怪我する。で、椎名がこのエッセイで「おとなしくサメ穴に行ってなでなでしていればいいものを、とそのあとぼくは彼に言ったのだった」と書いている。ここを読んで思い出したよ。

椎名何を?

目黒沢野が落ちて病院に入っているというんで、スイスに電話したわけ。やだなあフランス語かなあ、どうやって呼び出したらいいんだろと思ったら、沢野がいきなり電話に出て、どうしたの?って元気な声で言うんだよ。とてもスイスにいるとは思えないくらい、その声が近いんだ。いや、この本には関係ないんだけど、ちょっと思い出したんで。

椎名そうだ、あいつ、大怪我したんだ。

目黒あとは何かあったなあ。中村さんとの対談があったか。2本収録されているんだけど、これは面白い。たとえば、蛸が海岸からあがって舗装道路を横切り、スイカをかじって種だけぷっと吹き出すとか、熊に追いかけられて逃げ出したら熊が追い抜いていったとか、奇妙な話が多いんだ。あとは四万十川に行ったときの裏話とか、すごく面白い。

椎名覚えてないなあ。

目黒この本の第四章は「南国快晴。第一東ケト丸の進水」という章で、椎名たちがみんなで船を買って、それを第一東ケト丸と名付けて、その進水式を行ったときの話なんだけど、それ、オレ、行ってるんだよ。でもなんで行ったのかなあと思ったら、そのときのイベントタイトルが「八丈島汐風焚火どか酔いセミナー」なんだって。その八丈島でやった「どか酔いセミナー」は覚えているんだけど、第一東ケト丸の進水式と同じときとは思ってもいなかった。別々のイベントだと思ってた。

椎名あれ、テレビでやったんだぜ。

目黒えっ、テレビカメラがまわってたの?

椎名そのDVDがあるよ。お前も出てるよ。

目黒それ、見たいなあ。

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