『わしらは怪しい探険隊』その2

目黒『わしらは怪しい探険隊』の続きなんだけど、これ、実は椎名の創作だよね。たとえば冒頭、こういう一文で始まるんだ。
「神島にしようじゃないの」
と、その年の春、陰気な小安は早くも二級酒四合をぐびりぐびりと飲み干し、板わさ、もつの煮こみ、もろきゅう、といったところをあらかたつつきおわったところでぼそぼそと陰気に言った。
つまり、探険隊の夏の遠征先を決める会議を、その数カ月前に開いたということなんだけど、こんな会議、やったことないでしょ?

椎名やったことないな。

目黒ほら、創作じゃん。

椎名そりゃあ創作だよ。

目黒行き先は全部、椎名が一人で決めていたんでしょ?

椎名そうだな。

目黒それでね、この本だと最初から神島に行くことになっているんだけど、オレの記憶だと最初の目的地は伊良湖岬だったんだよ。ところが現地に着いてみたら、キャンプにふさわしいところではない。どうするのかなあって思って待っていたら、沖合の島に行くぞって言うんだ。それが神島だった。

椎名その通りだな(笑)。沖合に島が見えてさ、あそこに行こうって。定期船はなかったけど、小さな船を貸し切ればそこに行ってくれるって言うから交渉してさ、それで島に渡ったわけ。

目黒ということはさ、その島に行ってもキャンプにふさわしいところがあるかどうか、わからなかったわけだろ? それでも行っちゃうんだ。

椎名なんとかなるよ。なっただろ?

目黒いいかげんだなあ。

椎名それに、そういうのが楽しいんだ。

目黒おれが覚えているのは、神島の砂浜にいたら、向こうのほうからスーツを着た男がズボンの裾をまくって、鞄と靴を手に持って歩いてくるやつがいたの。それが木村晋介。よくここでキャンプしてるってわかったなあと感心したんだけど、その前日に椎名がどこかに電話しに行ったなあと思いだして。

椎名当時は携帯電話がないからなあ。木村には伊良湖岬としか言ってなかったから、神島に変更になったって事務所に電話したんだよ。神島のどこにいるんだって言うから、来ればわかると(笑)。

目黒島は決めても、どこでキャンプするかは行き当たりばったりなんだ。

椎名粟島のときも最初にテントを張った場所は蚊がすごくてさ、二日目は違うところでキャンプした。

目黒そういえば、オレが初めて参加した三宅島のときも、突然立ち止まって、ここにするかって言うんだよ。おれはてっきり、どこでキャンプするかもきちんと決めているんだとばかり考えていたから、ここにするかってどういう意味だと。そしたらそこが岩場で、夜寝るとごつごつした岩が背中に当たって痛い(笑)。

椎名三宅島のときじゃないかなあ。夜寝てたら水が溢れだして、あわててテントを移動したのも。

目黒いいかげんだなあ。

椎名キャンプってそんなものだろ。

目黒本当にそうなの?

椎名いや、知らないけど(笑)。

目黒あとね、この『わしらは怪しい探険隊』が作品としてしまっているのは、フジケンがいることだよね。同世代の男たちがどこかにキャンプにいくってだけの話だったら、もっと違うニュアンスになると思う。ところが子供がいるんだよ。家族旅行でもないのに子供がいるってことが異色だよ。作品にひろがりが生まれている。

椎名当時は小学六年生か。

目黒『わしらは怪しい探険隊』のエピローグが余韻たっぷりでいいよね。二十歳くらいに なったフジケンと街でばったり再会するシーン。これは事実?

椎名それは作ってない。本当にばったり会ったんだ。

目黒その後、フジケンとは会ったことあるの?

椎名いや、会ってないな。

目黒小学六年のときに、神島に行ったことをいまでも覚えてくれているといいね。

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