『旅の窓からでっかい空をながめる』

目黒それでは『旅の窓からでっかい空をながめる』です。東京スポーツの「風雲ねじれ旅 世界さまざま」2016年1月〜2019年2月までに連載した分をまとめたもので、2019年6月に、新日本出版社から刊行と。これはあれだね、東スポに連載したやつからある部分だけを切り取って単行本にしているんだ。

椎名そうそう。その3年分の連載から2冊の単行本を作っているはずだよ。もう一冊はあとで出てくる。

目黒これだよこれ。この本の65ページに載っているラオスの少女。『世界の家族 家族の世界』に入っていた写真とまったく同じなの。

椎名どれ、見せて。

目黒ほら、これは同じ写真でしょ。髪飾りが違っているとか微妙に違う写真の可能性がある、そんなに簡単に決めつけるな、とあのときは主張してたけど(笑)。

椎名本当だ。

目黒『世界の家族 家族の世界』のほうはカラーだったけど、こっちはモノクロで、これはカラーのほうがよかったし。同じ版元の本で、しかも同年に出た本だから、これは避けたほうがよかった。

椎名すまなかった(笑)。

目黒素晴らしいのは、この写真だね。49ページの橋。

椎名ああ、ミャンマーな。

目黒タウンタマン湖にかかっている橋で、高さ8メートル、長さ1200mもある。チーク材だけで作られていて、こんな文章を椎名は書いている。

 この橋はここらに住んでいる人に日常的に利用されているようで、様々な人が行き交っている。日よけ傘をさして行く母子や、自転車をひいていく僧侶や、日本でいえばリヤカーのようなものにたくさんの品物を乗せていく商人、托鉢の鉢を抱えているお坊さんのちょっとした行列などなど、大勢の様々な人々が静かに行き交っている。

写真を見ると、自転車をとめて釣りをしている少年もいる。「ずっと1か所で見ていると映画のようで面白い」という写真キャプションが付けられているように、この写真には物語があるよね。もっと大きな写真で見たかった。これでは小さすぎる。

椎名本当はカラーだからね。

目黒カラーのほうがいい。不思議なのは、これ、ミャンマーにいったときってかなり前だよね。その後、たくさんの写真集を出しているけど、おれはこの写真、初めて見る。いままでの本に載せたことある?

椎名アサヒカメラには載せたな。

目黒それは本になっているの?

椎名なってない。

目黒だから、初めてなんだ。こういう素晴らしい写真もあれば、問題のやつもある。

椎名なんだよ。

目黒61ページの写真。

椎名どれ?

目黒これ。

椎名ああ、硫黄島な。

目黒椎名のベスト3に入る秘湯で、トカラ列島にある硫黄島の温泉を撮っているんだけど、この写真のどこに温泉があるのか、とてもわかりにくい。

椎名その右の端だよ。

目黒言われりゃわかるけど、感動もない。ミャンマーの橋の写真もあればこういう写真もあるから、油断できない(笑)。

椎名おれも油断していた(笑)。

目黒ニューギニアのヤシの実とりの少年の写真も、もっと大きくしないと。せっかくドラマ性のある写真なのに、もったいないよ。

椎名それも本当はカラーなんだ。

目黒そのほうが絶対にいい。あまり批判しているとあれなんで、最後にいい写真をもう一つ。

椎名おお、褒めてくれよ(笑)。

目黒43ページの子供たちの写真。これ、なんということないんだけど、いいなあ。笑顔が素晴らしい。

椎名ミャンマーの子供たちだね。

目黒椎名がこう書いている。

もうひとつ、ミャンマーの人々から感じたのは、誰もが例外なく心地のいい対応をしてくれることだった。多くの国で、外国人と見ると言葉たくみに近寄ってきてうまいことを言って、最後は金銭目当ての悪事を働く人がいるが、そういう気配は皆無だった。むしろ働いている人や道を通り過ぎる人々と顔を合わせると、たいてい心から優しいような微笑を差し向けてくれる。日本にはもうめったにない「アジアの微笑」がこの国の最高の魅力だろう。


 子供たちの笑顔の写真は、この「アジアの微笑」を象徴するようないい写真だよ。

(この対談は2020年1月27日に行われました)

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