『わが天幕焚き火人生』

目黒次は『わが天幕焚き火人生』にいきます。2019年3月に、産業編集センターから出た本ですが、初出が「SINRA」とか「週刊新潮」もあるんだけど、大部分がサンデー毎日なんだよ。それも2014年と2015年に集中している。この間の連載エッセイは毎日新聞社から出ているはずなんだけど、そのときの単行本には載せきれなかったやつを今回まとめたということだよね。

椎名そうだな。サンデー毎日の連載は終わっているから。

目黒終わってたの? いつ?

椎名10年くらい前じゃないの。

目黒いやいや、そんなことはない。『われは歌えどもやぶれかぶれ』を数回前に取り上げたけど、あの初出が2016年から2017年までだったから、そのときまではやってます。そうか、やっとわかった。サンデー毎日の連載はずっと毎日新聞社から出ていたのにどうして『われは歌えどもやぶれかぶれ』が集英社から出たんだろうって思ってたんだ。もう連載が終わってたんだ。

椎名まあ、いろいろあるよ。

目黒それでは例によって細かなことを聞いていきます。まず、シベリアなどによくある「冬季鬱」って言葉が出てくるんですが、これはどういうこと?

椎名太陽が昇らないんだよ。暗い状態が数カ月も続くわけだ。それは鬱にもなるよな。

目黒じゃあ、太陽が沈まない季節もあるよね。夏って言うのかな。その時期は大丈夫なの。

椎名明るいんだから平気だろ。ポリネシア文学は暗いか。暗くないだろ。

目黒いや、ポリネシア文学を読んだことがないのでわからない(笑)。

椎名ロシア文学が暗いのも、それで説明できるよな(笑)。

目黒ま、いいや。あと、画期的だと思うのは、汚染された水をどこへ持っていくかという究極の解決法。

椎名なんだっけ?

目黒太陽に接近させて蒸発させると。実現性はないけど、アイディアとしては画期的だよね。

椎名いや、科学がもっと進歩していけば、出来るようになるかもしれない。

目黒面白かったのは、運転免許の高齢者講習の話。バナナ、スイカ、ノコギリ、マヨネーズ、ラッパ──食べられるものに○をつけよってテストは本当にあるの?

椎名待合所ではもっぱらその話題でもちきりだぜ。

目黒ちょっと待てよ。じゃあ、このテストは実際に椎名が受けたテストじゃないの?

椎名実際にはもう少し、わかりにくくしている。

目黒わかりにくくってどういうこと?

椎名最初は、今日は何日ですかって簡単な質問から入るんだよ。何の用で来ましたかって質問を重ねて、ラッパ問題はそのあとにさりげなく出てくる。わかりにくいだろ?

目黒わかりにくいかなあ(笑)。でもさ、こういう講習を受けてるのに、どうして高齢者の暴走が多いの?

椎名だから、いまのテストに意味がないからだよ。だって、テストにだいたい合格するんだぜ。落ちるやつを聞いたことがない。

目黒ラッパに○をつけても?

椎名合格だね(笑)。

目黒ホントかよ。さすがにラッパに○はまずいでしょ。運転能力にどう関係するかはともかく、判断能力が欠如してるとしか思えない。困ったねえ。そうだ。

椎名なんだよ。

目黒2014年11月に、椎名は『ぼくは眠れない』を新潮新書から出しているんだけど、これが「モノカキ35年」で、251冊目の本であると『わが天幕焚き火人生』に書いている。それからもう6年以上たっているから冊数はもっと増えていると思うけど、年平均で7冊なんだ。すごいね、そのペースで書きつづけてるというのは。

椎名粗製濫造ですよ。

目黒それとね、ニューヨークのラーメン屋のメニュー表記の話がここでも出てくる。もうこれで五度目です。数えました(笑)。

椎名あれ、面白いんだよ。

目黒だから雑誌に書くときはいいよ。でも単行本のときに削りましょう。

椎名わかりました。もう書きません。

(この対談は2020年1月27日に行われました)

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