『あるいて行くとぶつかるんだ』

目黒次は『あるいて行くとぶつかるんだ』。「本の旅人」の2016年10月号から2017年12月号まで連載したものですね。

椎名どこの会社?

目黒角川書店。

椎名あ、そうか。

目黒単行本は2018年3月の刊行です。まず、ビールの話からいきましょう。上海売っている三得利ビールはおいしいという話。この三得利ビールは、サントリーの現地法人が作っているビールだというんだけど、そのことを中国の人たちは知ってるの?

椎名どうかなあ。でも青島ビールがうまいのも、ビール王国のドイツが指導して作ったからだぜ。

目黒1960年代に「あぶないビール」部門で1位になっていただろうビールが、インドのビールだ、という話も書いてある。瓶ビールだと油断しているととんでもない。傷がつかないように上手に栓をあけて中身を別のものに入れ換えてしまうから油断できない。何と入れ換えたのかわからないから怖かったと。ビール好きの椎名として、世界中のビールを飲んできたんだ。

椎名世界中ということはないよ。

目黒いままで飲んで、いちばんまずかったのは?

椎名1980年代のロシア全域のビールだな。「馬のしょんべんよりまずい」と言われたビールで、おれは一週間も下痢が続いたよ(笑)。

目黒その後、ロシアに行った?

椎名2000年代に行った。

目黒ビールはまだまずかった?

椎名おいしかった。

目黒じゃあ、ビールの味も変わっていくんだ。

椎名そうだな。

目黒山小屋のひどさも書いてあるね。行動を強制されたり、威張ってきたり。これは椎名が若いときの話だから、40年以上前の話だよね。その後は変わったのかね。

椎名おれは行ってないけど、変わったらしいね。いまどきそんな態度をしてたら客が来ないだろ。

目黒なんといっても驚いたのは、大阪の一心寺の話。「骨を小さく砕き、、たくさんの人骨を集めて膠で固め、骨による仏像を作る」ものを「お骨佛」というらしいけど、おこつぶつ。すごいよね、これ。十〜十二万人の遺骨を使って一つの仏さまを作るようなのだが、壮観だろうなこれ。

椎名2018年には17・5万人の骨を使った「お骨佛」を作った。だからいまは6体あるよ。

目黒あ、一つじゃないんだ。

椎名いまは6体ある。

目黒一心寺にしかないの?

椎名一心寺は、宗派にこだわらないので「お骨佛」の指導にもあたってるよ。

目黒すごいよねこれ。この本で初めて「お骨佛」を知った。『あるいて行くとぶつかるんだ』っていうのは、タイトルとしてどうよって気がしていたけど、中身は結構いいよ。「お骨佛」のように初めて知る話が多い。

椎名そうか。

目黒小樽の山の上の家を手放したのも初めて知った。あれを維持するのは大変だろうなと思っていたなあ。それとタクシーに乗って追突されたのも初めて知った。

椎名おれは肩を傷めた程度で入院もしなかったけど、タクシーの運転手は入院したらしい。おれはそれで車の運転をやめたよ。

目黒椎名が事故をおこしたわけではなく、タクシーに乗っていただけだけどね。

椎名これを機会にやめなさいって、いろんな人から言われてさ、まあ年も年だから、やめることにした。

目黒じゃあ、最近はどうしてるの? 雑魚釣り隊の集合のときは、椎名が自分で運転して現地まで行ってたよね。

椎名若い衆が迎えに来てくれる。

目黒そうだよな、椎名が自分で運転することはないよ。

椎名突然思い出したんだけど、言っていいかなあ。

目黒(笑)。いいよなに?

椎名アルゼンチンのスパゲッティはうどんだな。

目黒なによ急に。

椎名太いんだよ、これが。スパゲッティっていうよりも、うどんに近い。

目黒コシは? 固いの?

椎名柔らかい讃岐うどん。すっごく昔、讃岐の人がアルゼンチンに行って、製法を伝えたんじゃないかなあ。

目黒調べたの?

椎名いや、なんとなく、そうじゃないかなあって。

目黒でも、なんで車の話の次に、アルゼンチンのスパゲッティが出てくるのよ。

(この対談は2019年11月25日に行われました)

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