『アザラシのひげじまん』

目黒次は、『アザラシのひげじまん』です。赤マント・シリーズの第21弾ですね。週刊文春2008年1月3・10日号〜2009年2月12日号に連載され、2010年4月に文藝春秋から本になって、2012年11月に文春文庫と。ええと、細かなことが幾つかあるんですが、最初のほうに出てくる数え方の問題、これが面白かった。生き物の場合は、大きなものが「1頭」で、小さなものが「一匹」だというの。これ、納得するよねえ。椎名が考えたの、これ?

椎名おれが考えつくわけないだろ。何かの本に載ってたんだ。それ、書いてないか。

目黒その項は、おじさんおばさん若い男若い女、そして時々古い人が出てきて話し合う座談会形式だから、椎名の得意のパターンだよ(笑)、出典が書いてない。だから椎名が考えたのかと思って。そんなわけないか。あとは、携帯電話のメールの「題名」の欄でいつも迷うってのも面白かった。

椎名だってそうだろ。かみさんに今日は晩飯がいらないって用件をメールで打つとき、「今日の晩飯について」って書くのもなんだか仰々しいしな。

目黒おれはいつも本文のイントロを書くよ。

椎名なるほど、それはいいな。

目黒あとね、これは書いちゃっていいのかなと思ったんだけど。

椎名なに?

目黒『零細企業』という本を書いた松尾さんの履歴が最初に紹介されていて、それが週刊ポストのフリー記者→日刊ゲンダイのニュース部長→日刊アスカの編集局長→週刊金曜日の三代目編集長という履歴で、最後の週刊金曜日の編集長をしているときにストレスと過労から鬱病になりリタイアしたとまず書いてある。で、しばらくすると、こんなくだりが出てくる。最後にやっていた仕事の現場は、出社してくる社員が互いの挨拶もなく会話もなく電話は囁き声で終始沈黙したお通夜のような気配で、帰社する社員も無言。あるとき机の上に「生きているのか死んでいるのか」とメモしたら、かろうじて「生きてます」と返事があった、というんだよ。その前の文章から考えると、それが週刊金曜日のことだとわかるんだけど、いいのかね。まあ、椎名が書いたわけではなくて松尾さんの本の紹介だから仕方ないんだけど。

椎名だって本当のことだからいいんじゃないか。おれは編集委員をやっていたからこれが事実だとわかる。

目黒すごいなあ。

椎名いまは松尾さん、すごい元気だよ。

目黒この本には椎名が料理する話も多くて、それが簡単な男の料理だから思わず作りたくなるんだけど、面白いのは、これをこうして作ればおいしいと書いたあとに、まずかったらおれが謝ると書いている(笑)。椎名に謝られても困るよね。そうだ、すごいと思ったのは2008年の7月に「ぼくは三十九本の原稿締め切りを抱えていた」と出てくること。

椎名アマゾンに行く前で、その間の原稿を書き溜めなければならなかったんじゃないかなあ。

目黒1カ月に三十九本だよ。

椎名短いものもあるからね。

目黒しかもその間、2つの文学賞の応募原稿を読んで、それだけでも大変なのに、さらにそれ以外に自分の好きな本まで読んでいる。『コンゴ・ジャーニー』を読んだのはこのときだね。

椎名あれは傑作だな。

目黒興奮して書いているよ。おれ、この本、まだ読んでないんじゃないかなあ。

椎名読んだほうがいいよ。これを読むとコンゴに行きたくなる。もう歳だからいかないけど、おれが若かったら絶対にいくね。ただ、やばいよな結構。

目黒そういえば、『絶対帰還』も大絶賛しているなこの本で。これはおれも読んだよ。

椎名あれもすごい。

目黒あとね、沖縄料理のナンバー1は「フーチャンプルー」だと書いているんだけど、これを少し説明して。

椎名車麸を水で戻して、それをギュッと絞るだろ。それを溶いた卵につけると卵を全部吸い込んじゃう。そこに豆腐と野菜を入れて炒めるんだよ。

目黒じゃあ、その車麸さえあれば家庭でも出来るよね。ギュッと絞って卵を吸わせて、そこに野菜をいれて炒めれば、車麸入りの野菜炒めが完成でしょ。

椎名炒めることをチャンプルーって言うんだよ。

目黒車麸入りの野菜炒め、でいいよね名称は。

椎名だから、同じことだろ。

目黒とにかく、おいしいんだ。

椎名そう言っている(笑)。

旅する文学館 ホームへ