『寝ころび読書の旅に出た』

目黒次は『寝ころび読書の旅に出た』。いろいろなところに書いた書評や文庫解説をまとめて2015年11月にちくま文庫から刊行と。オリジナル文庫って、椎名、初めてだよね。

椎名筑摩書房から本を出すのも初めてだよ。

目黒あ、そうなの。それは意外だね。

椎名これは寄せ集めだからな。

目黒いや、これはいいよ。椎名の書評を全部読むのは大変だから、こうしてまとめてくれると助かる。東京新聞に書いた書評がたくさんあるんだけど、結構書いていたんだね。

椎名月に一回の頻度で書いていたな。

目黒最初から細かな話で悪いんだけど、アルバーノフ『凍える海』の文庫解説の中で、シャクルトンの南極探検が1914〜1917年、『凍える海』の聖アンナ号による北極探検が1912年。「ほぼ同じ」と椎名が書いているんだけど、その次の一文に驚く。そこにこうあるんだ。

「シャクルトン隊と約半世紀の時代の隔たりがあるから、脱出していく人々の装備はだいぶ違っている」

ほぼ同じ、なんだから、約半世紀の時代の隔たりはないんだよ。

椎名あれ。これはおれの間違いだな。

目黒そうだよね、どうしてこんなこと、間違えたのかなあ。そうだ、その『凍える海』の文庫解説で書いているんだけど、1970年代の初めに文藝春秋から「現代の冒険」というノンフィクションの叢書が出たことがあって、その第5巻にシャクルトンの「エンデュアランス号漂流」が入っていたと。

椎名抄訳だけどな。

目黒でもそんな早い段階に抄訳とはいえ、翻訳して収録したとは偉いよね。だって完訳が出たのはずいぶんあとだぜ。

椎名そうだな。

目黒昭和三十年代の半ばに、筑摩書房から『世界ノンフィクション全集』が出たことがあるでしょ。

椎名おれ、揃いを持ってるよ。

目黒おれは2セット買った。

椎名どうして?

目黒最初、すごく安く揃いを買ったんだけど、そのあとで綺麗な全50巻をみつけたので最初の安い版は浜本にあげた。この『世界ノンフィクション全集』は最初全50巻で、その後、24巻版とかいろいろ巻数を変えて刊行したけど、最初の全50巻に、玉井喜作「シベリア隊商紀行」が入っている。

椎名あれは完訳か?

目黒あれも抄訳だね。完訳はいまだに出ていない。でも昭和三十年代の半ばにそういうものをきちんと収録していたってすごいよね。編集委員がやっぱりすごいんだと思う。

椎名誰?

目黒『世界ノンフィクション全集』は、中野好夫、吉川幸次郎、桑原武夫の三人。

椎名ふーん。

目黒笹森儀助『南嶋探検』は面白そうだね。明治二十六年の琉球探検を描いたノンフィクション。

椎名それは面白いよ。

目黒でもこれ、東洋文庫の一冊でしょ。読みにくいよね。漢字にカタカナだから。よく読めるよなあ。

椎名興味のあるものなら読めるんだよ。青森から琉球に行くから最初はまったく言葉がわからないんだ。

目黒なるほどなあ。読もうかなあ。そうだ。これもすごいよね。

椎名なに?

目黒沢野ひとし『お寺散歩』の書評なんだけど、その冒頭がすごい。

著者の沢野君は高校時代からの知り合いで、互いに現在の仕事になってからもぼくの小説やエッセイに専属のようにしてイラストをつけてもらっている。若いじぶんには仲間らと一緒にアパートで共同生活などをしていたが、歳をへるにしたがって彼の自分勝手で人の悪口ばかり言っている嫌な性格がさらに増し面倒くさくなって近頃はあまりあわないようにしている。

いいのかねこんなこと書いて(笑)。

椎名だって本当だろ(笑)。

目黒この書評が強い印象を残すのは、これだけ著者の人間性を批判しているのに、後段になって本の内容にふれると、一転して絶賛するんだよ。これがいいよ。もしも前段で著者の人間性を褒めていたりしたら、なんだよ友達だから褒めるのかよ、と信頼されないかもしれないけど、とにかく「人の悪口ばかり言っているやつ」だからね。それが素晴らしい本を書いたっていうの。これは効くよ(笑)。

椎名別に効果を狙ったわけじゃないけどな。

目黒最後に一ついい?

椎名なに?

目黒この本のあとがきの冒頭に、おれの名前が出てくるんだけど、それが「目黒孝二」になっている。

椎名それがどうかしたか?

目黒椎名がおれの名前を覚えてなくてもかまわないけど(笑)、おれは「目黒考二」なんだよ。編集担当者や校正の人はチェックしてほしかった(笑)。

旅する文学館 ホームへ