『地球上の全人類と全アリンコの重さは同じらしい』

目黒これはタイトルがいいねえ。

椎名次はなんだ?

目黒『地球上の全人類と全アリンコの重さは同じらしい』です。早川書房から2014年9月に出た本ですね。

椎名SFマガジンに連載したやつだ。

目黒そうそう。この書名だけで買おうと思うよ。問題は、このタイトルの素晴らしさに内容が見合ってないことだね。

椎名そう来ると思った(笑)。

目黒これは椎名が考えたフレーズじゃなくて──。

椎名ナショナルジオグラフィックだな。

目黒その日本版の2006年10月号に掲載されたハーバート大学のエドワード・O・ウィルソン教授の「アリの世界 その不思議な社会性を追跡」という論文から引用したと。地球上には約1京(1兆の1万倍)匹のアリがいるらしいんだけど、その総体重は全人類の総体重にほぼ等しいと。えってびっくりするよね、これは。

椎名教授の論文を読んで驚いたんでタイトルに使ったけど、その話についてはこの本で何も書いてない(笑)。

目黒そう言われりゃそうだ。あともう一つ、これはSFマガジンに連載した「椎名誠のニュートラルコーナー」をまとめたものだけど、その連載は2008年6月号から2014年4月号まで6年間やっているんですよ。この連載はもっと前から続いていて、6年前にも早川書房から1冊出ている。それが『長さ1キロのアナコンダ』。で、6年ぶりにまた1冊にまとまったわけだけど、これ、おかしいよね。6年も連載しているのに1冊にしかならないのかよと。

椎名隔号連載だけどな。

目黒それにしても6年も連載すれば量的に1冊ってことはないよね。読んでわかりました。どこかで読んだような話が多い(笑)。

椎名本にするときにかなりカットしたんだ。

目黒それでもこれだけ残っているということは、連載分はこれまでよそで書いてきたこととかなりだぶってたなと推測できる(笑)。そういうのを削っていくと、1冊分しか残らないんだろうね。

椎名お前みたいに全部読んでいるやつはいないんだからさ(笑)。そうそう。毎月書くのはきついから隔月にしてくれと言ってたのに、SFマガジンが隔月刊になっちゃったから、いまは毎号連載になっちゃったんだよ。

目黒書くのは隔月だから同じだよ。

椎名そうか。

目黒おれもミステリマガジンが隔月刊になった号から連載を始めたよ。

椎名隔月刊はいいな。

目黒本の雑誌を隔月刊から月刊にした人が、そんなことを言っちゃいけないよ(笑)。あ、そうだ。この見出しは椎名がつけたの? それとも編集者がつけたの?

椎名全部おれがつけた。

目黒これはいいよね。幾つか拾ってみると、こんなふうになる。


 「こたつにあたって秋田犬は何を話すか」
 「世界三大獰猛蚊にヤマトナデシコ蚊は歯がたたないか」
 「透明人間が瞬間移動するとどうなるか」
 「ほらホウキ星が氷を売りにきたよ」

読む気をそそるよね。つまり、書名と見出しは素晴らしい。

椎名内容も読んでくれよ(笑)。

目黒だから読んでるって。そう、これは面白かった。

千葉県流山市の路上で警官に「迷子」として拾われたヨウム(インコの一種)のヨウスケ君が、自分で住所と名前を名乗ったために無事、飼い主のもとに戻ることができた、という話は近頃暗い話ばかり多いなかでひさびさに楽しいニュースだった。

ホントかよってニュースだよね。これは2008年ごろの話だけど、こんなことが話題になったなんて知らなかった。いい話だなあ。

椎名警官が、君の住所は?って聞くわけはないんだから、自分から住所を言うように普段から訓練してたんだろうな。

目黒迷子になったときのためにね。あとは、『2000年から3000年まで 31世紀からふり返る未来の歴史』とか、『サイエンス・インポッシブル』とか、椎名の好きな科学概説書がこの本のなかで紹介されているんだけど、こういう本って面白いよね。言葉を使うチンパンジーが出現するのは2551年であるとか、ええと、これは『2000年から3000年まで』に出てくるのかな。

椎名『サイエンス・インポッシブル』の作者ミチオ・カクはたくさん概説書を書いているよ。

目黒そうだ、あとはこれ。シルヴァーバーグの短編「ホークスビル収容所」が紹介されているんだけど、これが面白そうなんだ。未来社会の犯罪者たちが過去に送られる話。それもただの過去じゃないの。囚人たちは暇つぶしに三葉虫を釣りにいくんだから。

椎名最悪の流刑だよな。

目黒その釣りの場面だけを妙にリアルに覚えているっていうんだけど、この短編がどの作品集に入っているのか書いていない。

椎名わからないんだよ。もう一度読みたいんだけど。

目黒読みたいよねえ。

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