『ぼくは眠れない』

目黒次は『ぼくは眠れない』です。「新潮45」の2013年4月号から2014年2月号まで連載し、2014年11月に新潮新書の1冊として刊行と。ええと、まず根本的な疑問があるんですが、冒頭にね、「はじまりは唐突にやってきた」と見出しがあって、何がきっかけで不眠症になったのかが書いてあるのかなと思って読み進むんだけど、明確なきっかけを書いていないんだ。

椎名そうか。

目黒作家になって猛烈に忙しくなって、最初のころは会社員だったから二足のわらじだし、時間的にも大変で、デビューしたばかりだからプレッシャーも半端ない。それに深夜に電話がかかってくるし、ストーカーも現れるし、そういうことが全部重なってストレスがたまったと、そういうことだと思うんだよ。ま、わかるからいいんだけど。

椎名で、体の具合が悪くなって病院にいって──。

目黒奥さんにつれていかれたことは書いている。

椎名あ、それは書いているか?

目黒うん。でも具体的な事例はたくさん書いているんだけど、言葉として明確に「ストレスがたまってそうなった」とは書いてないんだ。

椎名深夜3時に電話がくるのは、ひどいだろ?

目黒それはないよね。

椎名「どこそこのなんとかというマンガ雑誌の編集部ですが」って挨拶もなしにいきなり言うんだぜ深夜3時に。ほら、深夜まで仕事しているから、それくらいの時間は彼らにとって当たり前なのかもしれないけど。

目黒でもそれは常軌を逸してるよ。だってそこで仕事をしたこともないんでしょ。

椎名連載をしているわけでもなければ、会ったこともないやつだ。

目黒「うるさい、いまの時間を見ろ」って怒ったとこの本のなかで椎名は書いている。

椎名業界にデビューしたばかりのころだったから、甘く見られていたんだろうな。

目黒そのマンガ雑誌の誌名を覚えている?

椎名それが覚えてないんだよ。

目黒おれもそうだよ。ひどいことされた雑誌名とか編集者とか、エピソードは覚えていても、肝心要の名前を覚えてない。

椎名まったくなあ。

目黒昔、箱根の旅館で定期的に四人座談会をやってたころ、寝る前に椎名と木村さんが睡眠薬を出し合って、これはすごくいいぜとか、こっちもいいんだよと話しているのを見て、とても不思議な気持ちだったことを覚えている。

椎名お前と沢野は布団に入ったと思ったらすぐに寝ちゃうからな、コノヤロと思ってたよ。

目黒おれ、沢野ほどすぐには寝ないよ。あいつは常軌を逸している。

椎名おれからいわせれば、たいした差じゃないよ。

目黒おれ、笹塚にいたころは朝まで仕事していて昼に起きる生活をずっとしてたけど、町田に戻ったら、夜十二時になるとコテッと寝て、朝八時にバチッと目が覚める生活になった。夜中に目が覚めることがない。こういう本を読むとホントに申し訳ないんだけど。

椎名ずっと寝てなさい(笑)。

目黒椎名の本だなあと思ったのは、この本のなかに動物たちの睡眠時間が出てくる。これが興味深かった。たとえば短いほうからいうと、馬が2・9時間、象は3時間、牛は4時間、キリンは4時間半、人間は8時間、ウサギは8・4時間、チンパンジーは9・7時間、狐は9・8時間、犬は10・1時間、猫は12・5時間、ライオンは13・5時間。動物によってずいぶん違うんだね。いちばん多いのが、トビイロホオヒゲコウモリの19・9時間。ほとんど1日中寝ている。犬はもっと寝ていると思ったなあ。

椎名日本の犬はこれ以上寝ているかもしれない。

目黒あとは、コロンビア大学の研究では、睡眠時間が6時間の人は、7時間の人よりも33%も肥満になる確率が高く、5時間の人は50%、4時間の人は73%も肥満になる確率が高いっていうんですが。

椎名つまり睡眠が足りないと肥満になるってことだ。

目黒そうそう。ところがおれは、たっぷりと寝てるのに肥満なんだよ。コロンビア大学の研究に反しているんだけど(笑)。

椎名君は特殊体質だね(笑)。

目黒椎名はいまでも睡眠薬を飲んでるの?

椎名飲んでるよ。それは、集団行動を翌日しなければならないとかいうときは、どうしても眠っておかないとまずいしさ。時には睡眠が足りないと危険なことだってある。

目黒そうか。

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