飲んだビールが50000本! 発売記念トーク第5弾

ニシザワ:シーナさん……。

シーナ:ん、なんだ? 青っ白い顔して。

ニシザワ:「飲んだビールが5万本!」、校了してしまいました。ただ今、輪転機がガーっと、ガーっと回っている訳です。

シーナ:うん、そうだな。それがどうした。

ニシザワ: いや、もう誤植や誤字脱字、誹謗中傷阿鼻叫喚、どんなミスがあっても修正がキカナイのだなぁと。

シーナ:ふーん、お前でもそんな細かいこと気にするんだ?

ニシザワ:夜も眠れません。

シーナ:それは嘘だな。お前がどんな場所だろうとどんな時間だろうとどんな体勢だろうと3秒で寝ついているのを長年見てきているからな。いまのは嘘だ。

ニシザワ:さて、今回は校了を記念しまして、表紙絵の話を少々伺っていきたいと思っとるわけです。このドーンとして大迫力の表紙絵は、沖縄在住のアーチスト、豊永盛人さんです。「表紙をどうすっか」という会議の時に、椎名さんは「豊永さんにお願いしたいぞ」と即答でしたね。

シーナ:そうだな。豊永盛人さんにお会いしたのは今から6年前。俺、その当時に沖縄でラジオのレギュラー番組を持っていたんだ。それは町に取材に出て行って、さまざまな人々の息吹を伝えるというロケ番組だったんだけど、あるロケの時に、豊永さんのアトリエというかショップにはじめて入ったんだよ。場所は公設市場から歩いてすぐ。ショップの中をのぞくと、もう子供のオモチャ箱をひっくり返したような、なんというか雑多で色とりどりな感じでね。けれども、そのセンスの良さはすぐにピンときた。児戯に満ちたヒトだなぁ、と。その日は取材そっちのけで、いろいろな作品をじっくりと見入ってしまったよ。

ニシザワ:それで、「ウ・リーグ」10周年誌の表紙に?

ウ・リーグ 10周年誌の表紙

シーナ:そう。この絵を見た時に、パーッとインスピレーションが湧いてね。「これだ!」と。見ろよ、ふたりでバットを持ってるんだぜ。メルヘンチックというか思いも付かない構図というのかな。それでその場で「このイラストください!」って。けれども現金の手持ちがなかったんだな。しょうがないので、スタッフに金借りた(笑)。豊永さんとはそれ以来のお付合いで、沖縄にいくたびにショップに顔を出して、小物なんかを買ってる。「沖縄かるた」ってのがあるんだけど、これなんかホント、味わい深いんだぜ。

ニシザワ:「飲んだビール~」の時も即決でしたね。

シーナ:そうだな。豊永さんのイラストって、決してものすごく新しいという作風ではないと思うけど、古めかしくもない。なによりも、エピゴーネンでなく、豊永さんの人格がそのまま作品に表れていると思う。商売っ気のない、何と言うか職人気質の方、児戯をもった芸術家というのかな。この「飲んだビール~」の表紙もすごいよなあ。この表紙が上がってきた時に、「あー、この雑誌のタイトルは、とつげき!シーナワールド!!でなくて、今後も飲んだビールが5万本!のまま、いろいろなテーマを展開していけばいいんだなぁ」と思ったくらいだもの。それは豊永さんの絵だからこそ、だな。

ニシザワ:もし装丁に何らかのアワードがあったら、「ぼくがいま、死について思うこと」(新潮社)が、シンプル・オブ・ジ・イヤーで、この「飲んだビールが5万本!」が、本年のワイザツ・オブ・ジ・イヤーでしょうなあ。今年発行された何千点だか何万点のすべての本、雑誌のなかで。

シーナ:我ながら、すごい振れ幅だな(笑)。

(11月某日、校了直後のシーナ事務所にて)

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