『砲艦銀鼠号』

目黒次は『砲艦銀鼠号』。すばるに連載して、集英社から2006年6月に本になって、2009年5月に集英社文庫と。これは「自著を語る」からまず椎名の言葉を引こう。

この本は、帯にクラシックな超常未来とあるように、ぼくのいちばん好きなジャンルなのである。SFの専門誌ではスチーム・パンクなどとも言われているが、つまりは蒸気機関でコンピュータを動かすようなアナザーワールドを基本舞台にするおはなしのゾーンである。これは読む人によって好みがはっきりわかれるジャンルなので、出版としては冒険的な部分が多いが、この手のものが好きな作者としては、喜びに満ちて書けるのである。シリアスなSFではなく、どこかずっこけたようなキャラクターが出てくるシリーズものに魅力を感じ始めていた、その一作目であるような気がする。

ええと、SFですね。文庫本の表4の内容紹介には「ある大きな戦争で崩壊した近未来世界。金も居場所もなくなった元戦闘員の三人組が、偶然、手に入れたオンボロ戦艦銀鼠号で海賊稼業を始めることになった」とあるけど、そのわりに海賊稼業は続かない。むしろ崩壊した世界でこの三人が次々に出会う奇妙な生き物に物語の焦点は合っている。鉄魚とか泥豚とかね。だから冒険SFの香りが強い。椎名の意図はどうだったの?

椎名何も考えていなかった。

目黒聞いたおれがいけなかった(笑)。これは「北政府もの」なの?

椎名そうだな。

目黒小説の中に「北政府」という名称が出てくるものもあれば出てこないものもあって、これは出てこないんだ。あのさ、「北政府もの」って何作書いているの?

椎名たくさん書いてるよ。

目黒この『砲艦銀鼠号』は、灰汁と可児と鼻裂という三人が主人公なんだけど。

椎名この凸凹三人組が好きなんだよ。

目黒ここに「ツガネ」というのが出てきて、この小説では「戦闘用に開発された再生人間」とあるんだけど、のちに「つがね」と平仮名表記と出てくるものは微妙に説明が違っているんだけど、これは同じなの? いや、それは「つがね」がでてきたときでいいか。

椎名これは可哀相な人なんだよ。

目黒どういう意味?

椎名だって一度死んだ人なのに生き返らせて、それなのにまた死ぬんだぜ。可哀相だよな。

目黒あのね、それを作ったのはあなただよ。ただね、これ、何も起きないんだよね。崩壊した世界を旅して、奇妙な生き物が次々に出てくるってだけで。私小説なら何も起きないほうが自然でいいんだけど、こういう小説はそれだけだと何か物足りない。『武装島田倉庫』のときは最初だったから、鮮烈なイメージに驚かされたけど、それを繰り返されてもな、というところが正直にいうとある。

椎名これ、続きを書こうと思ったんだ。

目黒続き?

椎名最後に鳥人間が出てくるだろ? あれはその伏線だった。

目黒椎名が具体的なシーンを覚えているって珍しいね。

椎名おれだって覚えているよ。

目黒誰だっけなあ。あのインタビューを読むと椎名さんはほとんど覚えていませんよね、と誰かが言ってた(笑)。

椎名ひどいなあ(笑)。続編を書くつもりだったから覚えている。

目黒その続編では何かが起きるんだ。

椎名まだ書いてないけどな(笑)。いま書いてるのはもっと別なやつ。

目黒いま書いているのはその本がここのテキストになったときでいいよ。

椎名ちょっと聞けよ。お前、チャイナ・ミエヴィルって知ってるか?

目黒聞いたことはある。

椎名面白いんだよ。冒頭が鳥人間が空を飛ぶシーンで、蒸気機関がコンピュータを動かしている世界。つまりスチーム・パンクだな。これにはまってさ、いま書いているんだ。

目黒だから、それが本になって、このインタビューのテキストになったときでいいよ。

椎名お前も面白いよこれは絶対。ええと、タイトルが。

目黒わかったよ、なんという小説?

椎名『ペルディード・ストリート・ステーション』!

目黒翻訳がでているの?

椎名早川からでている。『ハイペリオン』がダメだったお前でもこれは大丈夫。

目黒本当かなあ。

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