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出版社:新潮社

発行年月日:2014年11月20日

椎名誠 自著を語る

 刺激的なタイトルであり、さらに刺激的な帯の文「35年間、不眠症。」これは編集者がつけたものだが、そう言われれば確かにその通りなのだ。それまで全く未経験だった、疲れていても夜眠れないという、つまりはまあ不眠症らしきものに遭遇したのはモノカキになる前後のことであり、そのあと濃淡はあるものの、確かに今日まで眠るべき時に眠れず苦しむ日が続いている。自分がまさかそんなナーバスなものにさいなまれるとは思いもよらなかったので、精神的なショックもそこに加わり、さらに症状を悪化させたという状況も確かにあったようだ。
 いくつかの医学療法、民間療法を体験したが、結局この原因は自分の精神の内側にあることらしいとわかった。それは自分自身の積年の記憶の経緯と、その間に数々の不眠にからむ専門書などを読んで至った個人的結論だ。今はもういたずらにあらがうことなく、医師に処方された自分に合った睡眠のための薬を状況に合わせて飲み、日常生活や仕事に影響が出ないようにうまくコントロールをするすべは得たようだ。
 この本は出版されてわりあいすぐに増刷された。それだけこうした同じ症状に悩む現代人が増えていることだろうと確信した。読んでくれた人が果たしてこの本で何かを解決で来たのか、あるいはせめてそのきっかけを得られたのか、確かなレスポンスは何もないのでやや空虚な気分があるのを隠せないが、でも体験した経緯を現在の思考にからめて存分に書けたことはひとつのカタルシスになったような気がする。

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