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出版社:講談社

発行年月日:2014年02月25日

椎名誠 自著を語る

ぼくはけっこう国語の教科書に小説を書いている。小学校から中学校までひろがって、お話を書いてきた。巻末のほうにその本にのっている著者の生没年が記録されているが、5,6人並んでいる有名な作家と一緒にぼくが並んで出ているのでびっくりした。よく見るとぼくだけまだ生きている。うれしいような申し訳ないような、失礼しちゃったような奇妙な気持ちだった。この『アイスプラネット』は中学2年生の国語の教科書にのっている短篇をベースにして新たに書いた小説で、頭の中に吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』という、ぼく自身が中学生ぐらいのときに読んだ本の残像が渦巻いていて、全体のモチーフとしてはその本の影響下にあるものだ。教科書では新学期にあわせて最初のほうに「アイスプラネット」が出ている。そのため毎年春過ぎになると全国のよいこたちから膨大な量の感想文が送られてくるのでびっくりしたものだ。一人一人に返事を書いていると何か月もかかってしまいそうなので、その生徒たちみんなに返事をするような気持ちで、四百字詰め原稿用紙一枚ぐらいの割合で学校ごとに返事を書いている。今は小学四年生の国語の教科書には「プラタナスの木」という小説ものっている。小学生たちも熱心に感想文を書いてくれて、このへっぽこ先生はその時期になるのがけっこうこわい。(2020年語りおろし)

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