『喰寝呑泄』

目黒それでは問題の『喰寝呑泄(くうねるのむだす)』です。1993年11月にTBSブリタニカから刊行され、1996年7月に集英社文庫と。サントリークォーターでやった対談10本をまとめた本です。

椎名何が問題なんだ?

目黒だって、すごいよこれ。『おろかな日々』の中で、「どこでどのようにうまいものを食ったか、という話よりも、どこでどのようにしてひどいクソをしたか、という話のほうが好きだ」と書いていたことを思い出すけど、ホントにそんな話ばっかりなのこれ。

椎名(笑)。

目黒椎名に対談は向かない、とここでさんざん言ってきたけど、これはすごく面白かった。というのは、これまでの対談が辛かったのは、椎名が相手に媚びるとまでは言わないけど、ちょっと遠慮するところがあって、それがなんだかなあという気がしたんだけど、これは「喰寝呑泄」とテーマがはっきりしているからね。さすがに、女優の大地喜和子さんの回は、呑む話と寝る話で、出す話はしてないけど、あとはほとんど出す話だぜ。相手もまたヘンな人ばっかりなんで、実にいきいきと語っている。

椎名相手は誰なんだ?

目黒作家の永倉万治さんから始まって、カメラマンの前田泰治郎、東海林さだお、加藤芳郎、奥本大三郎に前田日明、昆虫カメラマンの佐々木崑に、文化人類学者の西江雅之、最後がサントリー会長の佐治敬三。それで出す話ばっかりなんだぜ。すごいのはね、椎名が語っているんだけど、クソを喰う夢を見たっていうの。なんだよそれ(笑)。

椎名見たんだよホントに(笑)。

目黒それが嬉しそうに語るんだよ(笑)。カメラマンの前田さんとの対談では、「しかしクソの話をすると前田さん、止まらないですねえ。もっとしたいなあ(笑)」って喜んじゃってるし、もう大変だよ(笑)。

椎名こういう対談なら大好きだよ。

目黒東海林さんとは「どういうウンコが上品でしょうかね」と話し合うし、佐々木さんとはモンゴルでクソをするときには犬が嬉しそうにあとをついてくるとか、まあ実にいきいきしているんだ。

椎名こういう対談以外はもう出来ないなあ。

目黒加藤芳郎さんにはロシアで野グソをしたときに見たロシア人のクソのでかさを語り、「ケツを拭くときには何を使ってました?」と尋ね、昭和29年ごろには新聞紙を使っていたとの証言を引き出している。

椎名そうそう、新聞紙だったよなあ。

目黒ある程度の大きさに切って、箱に入れてあったね。しかし、よくあんな紙で拭いてたよなあ。

椎名よく揉んでから使っただろ?

目黒そうか、そうじゃないとケツが痛いか。それと、加藤芳郎さんは浅草紙(濃い緑色したやつ)を使ったと証言しているけど、それは知らないなあ。新聞紙の時代の次は、緑色じゃなくて、濃い灰色。ごわごわした再生紙みたいなやつを使ってた。

椎名うん。あれは新聞紙をどろどろに溶かして作ったやつだろ。

目黒あ、そうなの?

椎名あれで鼻も噛んだだろ?

目黒そうか、あれは鼻紙なのか。

椎名ティッシュなんてなかったからな。

目黒書名が『喰寝呑泄』なのに、大半が出す話で、他の三つは少ないというのが異色だなあ。

椎名よくこんな対談が、サントリークォータリーに載ったよな。

目黒あとね、わからないことがあるんだけど、西江雅之さんとの対談で、「興味がある食べ物にかじりつければ、今度は夢中になってしまっているので何か食べているということにも気づかないかもしれません」と言う西江さんに、椎名が「エジソンの、卵と目覚まし時計みたいなものでしょうね」と言うんだよ。で、西江さんが「ハッハッハっ」と笑うんだけど、この「エジソンの、卵と目覚まし時計みたいなもの」って何?

椎名エジソンじゃないなあ。

目黒何を言おうとしたの?

椎名研究者が研究に没頭しててさ、卵を茹でようとするんだけど、そばの鍋に卵を見ないで入れたら、それが目覚まし時計だったと。

目黒あ、なるほど。そういう意味か。それがエジソンなの? 広く知られた逸話なの?

椎名お前、尋常小学校でてるかあ(笑)。

目黒初めて聞いた。本当にエジソン?

椎名エジソンじゃないかも。アルキメデスかも。

目黒アルキメデスの時代に、目覚まし時計はないよ(笑)。

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