『あやしい探険隊 アフリカ乱入』

目黒次は『あやしい探検隊 アフリカ乱入』です。1991年に山と渓谷社から刊行され、平成7年7月角川文庫に収録と。これは異色の探検隊だね。このシリーズはいちばん最初のやつを除くと、あちこちに書いたものの寄せ集めで、だから行き先によってメンバーがそれぞれ異なっている。ところがこれは、男5人でキリマンジャロに行くと。その行動録を長編エッセイとして書いたものだから、このシリーズの中ではきわめて珍しい。

椎名おれと沢野と三島と。

目黒佐藤秀明と大蔵喜福の5人。いちばんびっくりしたのは、肝心のキリマンジャロに登るくだりがあっけない。あっという間に終わっちゃうんだ。おれ、よく知らないけど、結構大変だと思うんだよ、キリマンジャロに登るというのは。それなのに、全然たいしたことじゃないように思えてくる。つまり椎名の興味が、キリマンジャロに登ることにないんだね。みんなでアフリカにいくのは楽しいけど、登ることが目的じゃないんだ。

椎名高山病になっちゃったからな。

目黒そうか。その苦痛がこの本を書くときに蘇ってきて、キリマンジャロに登るくだりに暗く投影されているのかも。怖いよね、高山病。おれ、よく知らなくて、以前にトクちゃんが椎名とどこかへ行ってなっただろ?

椎名そうかあ。

目黒たしか、チベットだよ。

椎名それ、おれと一緒のときじゃないよ。

目黒そうだっけ。とにかく帰国してからトクちゃんにそのときの話を聞いたんだけど、頭が痛くなるとかその程度かと思ってた。ところがこの本を読むと、とにかく怖い。佐藤秀明さんが200ミリの望遠レンズを谷に投げ捨てた話が出てくるだろ? ヒマラヤで高山病になったときの話。

椎名プロの写真家がレンズを投げ捨てるほどすさまじいわけだ。とにかく全身を覆う疲労感、倦怠感は想像を絶するものがある。

目黒だからかなあ、キリマンジャロに登るくだりの描写があっけない。もっと盛り上げてもいいのに、ちょっと奇異な感じがする。頭痛と吐き気がして、それどころじゃなかったんだ。

椎名キリマンジャロのピークから見た景色はとにかく凄いんだけど、おれの力ではその凄さを書ききれなかった、というのもあるな。

目黒ただ、5人でずっと行動をするから、これまでの探検隊に比べれば面白かった。これまでのは寄せ集めだから、なんだか旅の目的もはっきりしないし、ちょっとなあという感じだったけど、これは目的もはっきりしているし、そのへんはすっきりしている。ただね、本筋とは関係ない話をしていい?

椎名いいよ(笑)。

目黒椎名の新刊『シークが来た』をカルカッタの空港で受け取る手筈になっていたのに、入手できなかった話が出てくるんだ。

椎名見えているんだよ。係官の後ろに本があるんだぜ。それを渡してもらえない。

目黒その悔しさはわかるけど、おれが言いたいのは、『シークが来た』はあなたの13冊目の本なんですよ。最初の本ならともかく、もう13冊を書いているんだから、旅の途中の空港にまで送ってもらわなくてもいいと思うんだよ(笑)。そんなに急ぐ必要あるか?

椎名見たいよそれは。

目黒それと驚いたのは、あの『アド・バード』の最終回をアフリカの高地で書いた話が出てくる。ドラマチックだよねこれ。で、そのまま日本にFAXしたの?

椎名いや、それは書いただけで送ったのは日本に帰国してからだな。

目黒あ、そうか。帰国してから書いたんじゃ間に合わないから旅の途中で書いたってことか。でも旅先だから、これまでのストーリーとか前回の粗筋とか何もないよね。それでよく書けたよね、しかも最終回だぜ。

椎名力があったんだろうなあのころは(笑)。

目黒それとこれも本筋には関係ないんだけど、アフリカを舞台にした『愛と野望のナイル』の話が出てくる。これがバートンの探検記を描いたものだっていうんだけど、おれ、知らなかった。そういう映画があったんだ。

椎名タイトルは甘ったるいけど、中身はハードだったよ。

目黒これ、主演はあいつだよね。

椎名誰?

目黒ほら、あのハンサム。

椎名ああ、あいつな。名前が出てこないけど、わかるわかる。

目黒ええと、タランティーノが撮ったやつでさ、ナチに制圧されたフランスに潜入する話があっただろ。あの兵士を演じたやつ?

椎名同じやつ?

目黒違うかなあ。

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