出版社:三五館

発行年月日:1993年10月13日

椎名誠 自著を語る

この本は情報センター出版局時代の星山さんと組んだ最後の本です。一九八〇年代の初めから、ある時期無敵を誇っていた──と勝手に思ってますが──われわれのタッグもこれで活動休止状態に入りました。だから、というわけではないんでしょうが、この本は写真が沢山入って贅沢なつくりの本になりましたね。ぼくは中村征夫さんの写真が非常に好きなんです。彼は水中カメラマンとして有名だけれども、陸上で撮った写真もすごくいいんですね。陸上で、というのは変な言い方かもしれませんが、本当に彼が陸の上で撮った写真には他の人にはない、独特の乾いた感触があるんです。その乾いた感じがぼくは大好きでね、ぜひ一緒に仕事をしてみたいな、と思っていました。特に前作の『ネックレス・アイランド』が、やや悔いを残すような形になったのでね。何とかしてリターン・マッチをやりたかったんです。それでぼくの方から、写真を沢山入れて共著にしたい、と言いだしたらこういう本になりました。この本はまた、「いやはや隊」が発足するきっかけにもなった本ですね。いろんな節目にあたっています。三回も形を変えて出るというのは、それだけ多くの人に気に入ってもらえたということですから、ぼくとしては非常に満足感でいっぱいの本です。(椎名誠 新潮文庫 1996年『自走式漂流記1944〜1996』より)

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