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出版社:新潮社

文庫

発行年月日:2016年06月01日

椎名誠 自著を語る

この本が出たのは2013年12月だ。まあ2014年と考えた方がいいだろう。まえがきに書いてあるのだが、ぼくが書いた本はこの本で240冊ほどになっているらしい。2015年の今これを書いているのは10月。だから一年十ヵ月の間ということになるのだが、その時点で258冊になっているようだ。これはインターネットの「椎名誠 旅する文学館」が正確に算出している数だから間違いない。大体自分の感覚でわかっているが、年に8冊前後の新刊を出しているようだ(文庫は別)。自虐の意味を含めて、ぼくはよく粗製乱造作家と自分のことを評しているが、まあ本当によく本を出しているものだと、我ながら感心よりはややあきれる気持ちだ。  今だいぶ減ってきているが連載ものがやたらに多い作家生活を送ってきたのだ。連載ものが多いということは締め切りが多いということで、基本的にはストレスになるが、しかしどうもぼくはものを書くのが好きなようだ。そうして粗製乱造の真骨頂である書くスピードがやたらに速い。  十数年前からワープロで書いているが、リズムに乗ると、さすがに自分では到底できなかっただろうと思うブラインドタッチというやつに今は近くなっている。書く時間になると書くべき枚数を見極めて頭の中である程度話をまとめ、その話を枚数に合致するように心がけながらバチバチバチと躍るようにキーをたたいていく。──と書くと聞こえはいいが、昔原稿用紙で書いていたときぼくは筆圧が非常に強いので原稿用紙の次の紙がペンで押されて刻印されたような状態になるときがあった。万年筆でそんな具合だから、ボールペンやえんぴつで書いたら二枚目もカーボンコピーのようにして読める原稿になるぐらいの筆圧だった。その癖がワープロ操作にもそのまま引き継がれ、今度は筆圧じゃなかった、打圧がものすごい。とくに短い原稿などはまわりで音だけ聞いている人が「何を怒っているんですか」と聞くくらいヒステリックともいえるくらいの強さとスピードで書いていた。今は大分指が痛くなってくるのでそれほどの強い打圧ではなくなったが、スピードは変わらない。そんなふうにしてたくさんの連載を書きこなして来たので、気がつくとひとつの雑誌の連載だけで一冊の本になるくらいの分量になっている。  本書は新潮社の『yom yom』という不思議なタイトルの雑誌に書きなぐってきたものが集まっている。テーマは自由だったのでその分どんどこ進む。一回書いてしまうと単行本のゲラになるまで何を書いたかすっかり忘れてしまうものだから、ゲラを読むときは、ほう、こんなことを自分で書いていたのか、とけっこう感心したりしている。アホに近いのだ。  この本はタイトルが気に入っている。なんで蕎麦屋を殺したいと思ったのか、読んでみればすぐわかるが、蛭子さんの非常にエキセントリックな装画と相まって、短文集ではあるけれど、最近のエッセイ本としてはぼくの好きな一冊でもある。

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