『いいかげんな青い空』
目黒ええと、『いいかげんな青い空』です。アサヒカメラ2002年1月号から2009年6月号まで連載した「シーナの写真日記」をまとめたもので、2010年に朝日新聞出版から単行本と。8年も連載してるのに1冊、ってちょっと奇異な感じがするんだけど、これは連載を全部まとめたんじゃなくて厳選したってこと?
椎名いや、省略はしていない。この連載って3ページだから一冊になるにはそのくらい時間がかかるんだよ。
目黒そういうことか。
椎名これが3冊目だよ。もう二十五年も連載しているから。
目黒8年で1冊だから、8×3で、おお二十四年か。計算も合う(笑)。この連載は楽しみにしていると以前も言ってたよね。締め切りが来るのが待ち遠しいって(笑)。
椎名早く締め切りが来ないかなあっていつも待っている(笑)。
目黒話はこれまでに読んだ話が少なくないけど、写真が強烈だよね。たとえば、この77ページの写真。上がカメラをにらむ少年で、下が襟巻きで顔の半分を隠す少女。そこに椎名はこういう文章をつけている。
少年はなんだか怒ったような顔をして私の前に立っていた。何をくれ、というわけでもなかった。珍しいから眺めている、というわけでもないようだった。少年はただもうずっとこのようにして、力のこもった怒りの目で私を見ていた。
チベットのチャンタン高原に住んでいる遊牧民の少年だね。で、もう少しいくと、テントから少女が出てくる。風が強いので、襟巻きですっぽり顔と頭を覆っていると。そのくだりの文章も引いておこう。
彼女の祖母が目を患って寝込んでいるのだという。強烈な日差しの続くこんな高地では強い紫外線にさらされている毎日なので、目を患っている人がとても多い。以前来たときそのことを聞いていたので目薬をいくつか持ってきていた。その一本をあげると、丸い娘はさらに顔や目のあちこちを丸くして大変に喜んだ。お礼にと言って羊のチーズの固い大きなかたまりをくれた。
これは写真の力と、文章の力だよね。その光景がありありと浮かんでくる。あとは細かな話がいくつかあるんだけど、沖縄のサータアンダギーのところで、「あまいものは苦手」と出てくるんだけど、本当に嫌い?
椎名好きじゃないなあ。
目黒若いときから?
椎名そうだな。特にケーキは苦手。
目黒和菓子もだめ?
椎名うん。
目黒甘いものを食べたいって思ったことないの?
椎名ないなあ。
目黒ふーん。
椎名いいだろ、そういやつがいても。
目黒あとね、沖縄の竹富島で手をつないだカップルの写真があって、1時間前に隣の海岸で出会ったばかりだというのね。帰りの船に、その青年だけが乗っていて、結果が怖くて椎名は聞けなかったというんだけど、フラれたんじゃないと思う。
椎名じゃあ、何なんだよ。
目黒手を繋ぐって、我々の世代と違って、そんなに深い意味はないんだよ。
椎名本当に?
目黒いや、全部推察だけど。つまり、付き合ってもいない。だからフラれたということでもない。そういうことだと考えるね、おれは。
椎名でも仲がよさそうだったなあ。
目黒あとは、相変わらず、犬の写真が多い。最初は、おや、犬の写真がいつもより少ないなって思ったんだけど、そのうちにどんどん犬の写真が増えてくる。ホントに椎名の写真集には犬が多いよね。
椎名こないだ写真展をやったんだけど、そこに来た人に、「椎名さんの写真には犬がよく登場しますけど、猫はほとんど写っていないですね」って言われた(笑)。
目黒意識したことある? 犬と猫の被写体としての違い。
椎名いや、ないなあ。
目黒じゃあ、全部偶然なんだ。だから前から言っているけど、犬の写真集を出してよ。世界中の犬の写真を椎名はいっぱい撮ってるから、楽に2〜3冊は出来る。
椎名そうか。
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