出版社:文藝春秋
文庫
発行年月日:2015年09月10日
椎名誠 自著を語る
『週刊文春』に21年にわたって連載していた「新宿赤マント」、のちに「風まかせ赤マント」というコラムタイトルの2ページエッセイは、時期になると単行本になり、2、3年すると文庫本になる。そのサイクルが結局21年続いているし、イラストは第一回目から最終回までずっと沢野ひとしであり、装幀は単行本も文庫本も南伸坊さんであった。だからこの本は定番化されてもいるのでやりやすいといったらけっこうそういえるシリーズだった。 週刊誌エッセイはその都度その都度の社会の動きや書いている当人の気分や仕事、生活環境をもろに反映してくるので、それぞれの年の精神の忘備録のようなものになる。本書はタイトルが示すようにその連載シリーズが2013年に終了し、その一番最後の単行本になったものだ。いつも装画の沢野には何も注文をつけないできたが、この本は新宿赤マントらしきものが空を飛んでどこかに去っていくようなものにしておくれ、と初めて注文をつけた。マントをつけたネコが空を飛んでいく。左手はパーになっているが、右手はなぜかグーになっている。よく意味がわからないが沢野の絵はそれほど繊細な意味はいつもないので、右手の指を一本ずつ書くのが面倒くさくなったのではないだろうか、と思う。この本が出てから数年後の今、表紙をあらためて眺めながら思っている。 裏表紙は居酒屋らしきところで大きなサケらしい魚の首が切られて、テーブルに腰かけてこっちを向いて怒っているおやじだ。実をいうと今これを書いているときまで、帯をはずしていなかったので、その構図を今初めて知ったのだ。これもよく意味がわからない。書くほうも、絵を描くほうも、さして意味を持たずにやってきたのが長生きできた秘訣だったのかもしれない。