『アメンボ号の冒険』

目黒次は『アメンボ号の冒険』。1998年に講談社から刊行されて、2006年7月に講談社文庫に入ったものなんですが、3篇の中篇というよりも短編を集めた作品集。表題作は別冊文春に書いたもので、あとの2篇、「ぼくたちのトロッコ鉄道」と「サンチョ山の秘密基地」は書き下ろし。ええと、もともとは児童書として刊行されたのかな。

椎名そうだね。

目黒冒頭に「この物語は、ぼくが小学五年の頃住んでいた町で実際に体験した、海と川と小さな丘陵地帯での大冒険記です」とあるので、実話をもとにした創作といっていい?

椎名うん。

目黒つまり東京湾に面した千葉の田舎町を舞台にした少年小説で、登場人物は4人。体が大きくて頭もでかい6年生のオボ、風呂敷が好きでスーパーマンのマントのように背中にくくりつけている4年生のフーちゃん、そして5年生の中島君とぼくの4人。この4人のさまざまな冒険を描く連作集だけど、あとがきに「それから永い年月がたち、悲しいことにオボは1995年に51歳の若さで死にました。肺癌でした」とある。ということは、オボのモデルは実在したということ?

椎名微妙に変えているけど、オボのモデルはいる。いつか小説に書こうと思っているんだけど、ちょっと事情があって、なかなか書けないでいる。

目黒ふーん。

椎名書き下ろしの2篇は、正月に書いた記憶がある。

目黒この絵がいいよねえ。松岡達英という人は有名な人?

椎名大ベテランの画家で、たくさんの本を描いている。福音館から出た『海辺のずかん』は超ベストセラーだよ。

目黒なんだかすごく懐かしい香りがする絵だよね。たとえば、糸巻き戦車も懐かしい。すっかり忘れていたけど、この絵を見て思い出した。こういうオモチャを当時は自分で作って遊んでいたんだ。

椎名そうか、お前のころもそうなのか。

目黒2歳しか違わないんだから同世代だよ。幻灯機も懐かしい。小学生のころにクラスの友達を何人も呼んで自宅で映写会をしたことがある。そうだ、竹馬も自分で作って遊んだなあ。

椎名当時は自分で作るのが当たり前だった。

目黒電気機関車のオモチャが欲しくてさ、でも高いからだめと言われて、すごく悲しかった。初めて買って貰ったのは小学4年のときのローラースケートかな。当時は車も少なくてほとんど通らなかったから、あ、おれの家の近所には、ということだけど、1日中道路を独占してみんなでローラースケートで遊んでいた。あれは楽しかったなあ。

椎名おれはローラースケートを自分で作ったよ。

目黒えっ。

椎名台車の下に付いている小さな車輪を下駄の裏に付けるのさ。

目黒それで滑って遊んだの?

椎名うん。危なかったけどな。

目黒そういう遙か遠い昔のことが、この本を読むと蘇ってくる。若い読者がどんな感想を持つのかはわからないけど、同世代の読者なら懐かしいんじゃないかな。特に、割り箸ゴム鉄砲のイラストを見て、あ、これ作ったと突然思い出してた。どうしてこれまで忘れてたんだろと不思議に思えるほど鮮やかに記憶が蘇ったよ。絵の力ってすごいね。

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