出版社:角川書店
発行年月日:2013年08月30日
椎名誠 自著を語る
ぼくの本はいくつかのシリーズがあるが、最も早くからはじまったシリーズモノは「あやしい探検隊」であった。まだプロのモノカキになっていない頃に書いた『わしらは怪しい探検隊』というのがこのシリーズのとっぱじめで、北宋社という社長一人に従業員の編集者一人という小さな出版社から頼まれていきなり書きおろしで書いたものだ。その頃ぼくは銀座にある小さな業界出版社の安サラリーマンで、長いこと業界専門誌への固い文章をかいていたときなので、こんなふうに自由に自分がおもしろがれる文章と本を書けることが大変うれしかった。 同じころに出した『さらば国分寺書店のオババ』がベストセラーになり、この本とあわせてぼくはモノカキ業界に進出してきたという経緯がある。『わしらは怪しい探検隊』は北宋社のロングセラーとなり、途中で装幀を変えた第二版目が出た。そしてぼくは思い切ってプロのモノカキとして様々な雑誌の仕事を手がけるようになり、最初に文庫本をもちかけてきたのが角川書店だった。 当時、あまり業界のことを知らないぼくは文庫本などというものに自分が関係してくるなど思いもよらなかったので、びっくりしつつもありがたき幸せ、とその文庫第一号の制作の依頼を受けた。以来、あやしい探検隊は各社に書いていくいろいろなスタイルの総合シリーズもののような一群となり、それらは2,3年たつと自動的に文庫化される。第一号の文庫を作ってくれた角川書店への恩義もあって、できるだけ角川文庫にそれらのシリーズを収められるようにしてきた。 しかし、年が進み、あやしい探検隊ものを手がける出版社には自社で文庫本を持っているところも増えてきたため、角川書店のシリーズとは関係なしに別の会社の文庫本に収録されるケースが増えてきた。それでは申し訳ないという気分があり、あるとき角川書店の編集幹部クラスと話をしているときに、角川書店で書きおろしのあやしい探検隊ものをやろうという展開になっていった。 そこで生まれたのがあやしい探検隊の乱入シリーズで、当初のあやしい探検隊メンバーとはすっかり顔ぶれが入れ替わっているが、いまぼくのまわりで海山川を遊び回っている若い仲間たちと、これは、というところへ十日から二週間ぐらいかけてキャンプ旅をするようになった。その第一弾が『あやしい探検隊北海道乱入』である。ただしかし、北海道は大きすぎて移動ばかりしている印象があり、もう少し小さなところを、という反省と希望からその第二弾のターゲットを済州島にした。ここはかなり本格的に傍若無人に乱入できた。おもしろいもので、こういうアウトドアの旅は十数人のメンバーが常に何かしらおもしろ事件を起こしてくれる。記録する者(ぼくのことだが)にとっては、ただもう同行して彼らと一緒に酒を飲んでいればおかしな騒ぎが繰り広げられ、一冊の本になっていくという、正直にいえばいい加減な展開でなりたっている本だ。 ただしかしひとつだけ自分自身を評価したいのは、駄文であってもこの忙しいさなかに、これはきっちり正しく書下ろしであるということである。
あやしい探検隊 済州島乱入
発行年月日:2016/8/25
文庫