201杯目:お酒とお勉強

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みんないいヤツだが痛風には気をつけろ
青森県八戸市/椎名誠撮影
(NIKON Df)

竹田やーっと涼しくなりましたね。

椎名うん。でもやっぱりビールがうまい、と言いたいところだが、最近は日本酒を飲んでいるんだ。

竹田いいっすね。何を飲んでるんですか?

椎名酒蔵とか銘柄とかすぐ忘れちゃうんだよ。

竹田仕方ないなあ。僕がライターとして酒席にはすべて同席し、椎名さんが飲んだものは記録しますので毎回ちゃんと呼んでください。

椎名君とこの前、新宿で日本酒をしこたま飲んだよな。

竹田楽しかったっすね。

椎名君は「このサケはいい香りがしますけれど飲み口は優しく水みたいでスルスルいける銘酒だ」とかなんとか、それっぽいことを言ってた。あれは何を飲んでいたの?

竹田まったく覚えてないです。

椎名バカめ。でも日本酒はうまいんだけど、最近はややこしいよなあ。

竹田ややこしいとは?

椎名同じ酒でも夏だけ売ってるやつとかあって、それをしたり顔で飲むのは恥ずかしい。

竹田「ひやおろし」とか「秋上がり」とかですね。

椎名そうそう。原料と精米歩合はまだしも、最近は工程が細分化されていてそれを酒席で説明されても頭に入るわけない。「るせえ、いいから早く飲ませろ」と言いたくなる。

竹田椎名さんらしいなあ。でも確かに火入れの回数とか澱引き省略とかいろいろありますもんね。酒米もかつてはなんでも山田錦だったけれど、かなり増えた。

椎名もちろん知識はあったほうがいいだろうけれど、知識があるほうが偉いわけではないからな。所詮は酒だから美味しく飲めればそれでいい。お勉強になってしまうとどんなジャンルもつまらない。

竹田企業努力と言い換えることもできますけれど、「お勉強になってしまうとつまらない」というのは同意見です。しかし、失礼ながら……。

椎名君の「失礼ながら」は本当に失礼だからなあ。

竹田椎名さんの『酔うために地球はぐるぐるまわってる』(講談社)や『らくだの話 そのほか』(本の雑誌社)あたりを読むとスコッチウイスキーの取材でスコットランドに行ってるわけです。

椎名我が旅作家人生の中でも5本の指に入る楽しく美しい取材旅だった。

竹田そこで論を展開していらっしゃいます。

椎名スコッチウイスキーうまいんだもん。

竹田そしたら日本酒も一緒で、うまい酒に巡り合ったら、どの産地でどう作られているのか、酸と糖の数値を知ったりと興味が出てくるのでは。

椎名……酒席の正論は嫌われるぞ。

竹田あっ、いつの間にかボウモア飲んでる。ちょっとください。

椎名ボウモアはうまいよなあ。

竹田うまいんですが、高くなってます。12年が今6000円から7000円くらいですかね。

椎名そんなにすんの?

竹田椎名さんがスコットランドに行った頃はきっと3000円くらいだったんじゃないすかね。

椎名ひええ。

竹田僕は2004年にライターになって東京に出てきて、初めてのひとり暮らしをして、西武新宿線の井荻駅のそばに住んでたんですよ。

椎名西武線の黄色い車両が懐かしいなあ。

竹田駅前に酒屋があったんですけどね、自分の門出を自分で祝うために、そこでマッカランの10年を買ってみたんです。

椎名思い切って買うほど高価だったの?

竹田3000円くらいだったと記憶してるんですけどね。でも、20代の僕には十分高級でした。そしてそれが終売したこともあり、今は数倍どころか10数倍くらいの値段でネットで取引されています。

椎名ひええ。

竹田僕もいつか行きたいなあ、スペイサイドにアイラ島、ハイランド、ローランド……。

椎名行ってきなさい。オミヤゲは忘れてはいけない。

竹田連れてってくださいよ。

椎名嫌だよ。遠いから。欧州便っていま何時間かかるの?

竹田スコットランドはヒースローとかアムステルダム経由だから、だいたい北回りでしょうね。往路は2時間ほど延びてしまい14時間くらいですかねえ。じゃあまず日本酒の酒蔵見学しましょう。

椎名それなら行こう。

椎名誠:旅サケ作家。芸術の秋なのでフランス映画『白い馬』(Crin blanc/1953年フランス)を観た。

竹田聡一郎: 麦酒がぶ飲みライター。読書の秋なので『潮音』(宮本輝/文藝春秋)を読んでいる。

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