199杯目:あらくれ幕張伝承
みちのくで食べたうまいあらくれメシ「馬バラ焼き」
青森県十和田市/椎名誠撮影
(NIKON Df)
竹田最近、新宿通いしているらしいっすね。
椎名体調も復活してきたから打ち合わせを犀門や池林房でしているだけだよ。まあ頻度は増えたかもな。君もビール飲みに来いよ。
竹田行きたいんですけどね、実家のほうがいろいろゴタゴタしていて。
椎名実家ってどこだっけ?
竹田神奈川県秦野市です。
椎名山のほう?
竹田そうです。海はないんですが、なぜか湘南ナンバーをつけている秦野市です。
椎名海は遠いの?
竹田いや、平塚や大磯まで30分くらいですね。1時間も走れば江ノ島や、逆に西側の真鶴や湯河原まで行けます。中学は平塚でサッカーしてましたし、高校は小田原にあったので、海にはよく行ってました。
椎名どんな遊びをしていたの?
竹田単純に沖まで泳いだり、マクドナルドで買ったハンバーガーを食べる時にそれを狙うトンビと戦ったり。ベカ舟で沖に流されたり、工事現場に忍び込んでトロッコ乗ったりなんてしてません。
椎名むう。読んだのか。
竹田はい。草思社から出た『中学生あらくれ日記』、楽しく読ませていただきました。4回くらい死にかけているあらくれシーナ少年ですが、一方でベレー帽をカバンにしまったりする多感な中学生でもあり、そのあたりの対比は興味深かったです。
椎名繊細なんだよ。
竹田陸上クラブの述壊は珍しいですね。
椎名無視すんな。
竹田椎名さんが偏愛しているタンメンの原風景も読めました。でも、味については書いてない。
椎名白状すると覚えていないんだ。タンメン専門店のカウンターに座って食べるという体験自体が強烈だったんだろうな。
竹田体験という意味では千葉に出かけるエピソードなども微笑ましいです。
椎名千葉も駅の周辺はだいぶ変わったけれど、今でも思い出すよ。
竹田これ、エッセイ集のようで一種の時代小説みたいな感覚でもあるので、長いものを読みたいっす。
椎名よく言われる。
竹田1950年代から埋め立て工事が始まり、作中にも書かれている漁業権の放棄、きっと地上げのようなこともあったと思いますし、最終的には海浜ニュータウンや幕張新都心と変わっていく沖の風景の変化、ヨソモノも増えた。それを地元の方がどう捉えて過ごしていたか。
椎名ふんふん。
竹田最近、封切りされた映画『宝島』の同名原作(真藤順丈/講談社)も戦後の沖縄が舞台で、同じく映画化された『罪の声』(塩田武士/講談社)はグリコ森永事件をモチーフにするなど、史実をベースにした物語はやっぱり熱量があり、それが共感を生んでいるような気がします。
椎名なるほど。
竹田だから漁業権を売ってしまって羽振りが良いけれど割り切れない漁師とか、イモ中の音楽教師の胸の内とか、当時の大人を主人公にして、その目で見た幕張の変遷を読みたいなあ、と思ったのでした。
椎名ううむ。
竹田前に雑魚釣り隊で浦安あたりの海苔店に買い出しに行ってるんです。『サヨナラどーだ!の雑魚釣り隊』(小学館)に載ってるかな。その時、店のお母さんがいろいろ昔の話をしてくれて、貴重だなあ、と感じると同時に「これってもう語れる人は少ないのでは」と思ったんですよね。
椎名そうかもしれないなあ。
竹田だから椎名さんも幕張の伝承者として、ぜひ書いてください。
椎名ううむ。ちょっと心に留めておきます。
竹田ということで、まずは海浜幕張あたりを視察して飲みましょう。
椎名それならすぐ行こう。
椎名誠:旅サケ作家。芸術の秋なのでフランス映画『白い馬』(Crin blanc/1953年フランス)を観た。
竹田聡一郎: 麦酒がぶ飲みライター。読書の秋なので『潮音』(宮本輝/文藝春秋)を読んでいる。
