193杯目:風呂上がりにきらくを眺めた

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網走から野付まで100km以上あるのだが北海道の人は「すぐそこ」と言って譲らない
北海道網走市/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)

椎名最近、何してるんだあ?

竹田それはこっちのセリフです。このコラムはそもそも「シーナさんの日常を読者に知ってもらう」という目的で「最近のシーナ」としたのに、椎名さんはあまり教えてくれない。

椎名暑すぎて動く気がしないだけだよ。クーラーの効いた部屋で原稿を書いている。8月は相撲もないしつまらない。君はまたアホみたいにどっか行ってるんだな?

竹田3年ほど前にカーリングの国内大会を北海道で連続で行う「北海道ツアー」が立ち上がったんですよ。その取材とお手伝いのために、今年も稚内、札幌、北見に行っていました。

椎名涼しい?

竹田それがですね、暑いっす。朝晩は気持ちいいのですが、最高気温はそんなに都心と変わらないんじゃないかな。でも、風があるし、湿度も低いので、快適ではあります。

椎名酒ばっかり飲んでるのかい?

竹田そりゃそうですよ。僕は悪くない。サッポロクラシックが悪いです。北海道に中長期滞在する機会もそんなに多くないので、今年はフェリーで行こうと思って。

椎名大洗から? 新潟?

竹田今のところ大洗ー苫小牧便「さんふらわあ」ですね。新潟や秋田を通る新日本海フェリーは小樽なので、札幌などに行く時は便利なんでしょうけれど、今回は目的地のひとつが北見なので。

椎名いつだかみんなで大洗から乗ったなあ。

竹田角川書店の『あやしい探検隊 北海道物乞い旅』ですね。あ、そういえば。

椎名なんだい?

竹田大洗ー苫小牧間を走る「さんふらわあ」の乗船条件、つまり船内の決まりごとに、「4 麻雀について 船内でのマージャン及び賭博行為は禁止させて頂きます」とありました。

椎名身におぼえがない。

竹田しかし、あの旅はひどかった、という話はここの144杯目でしているので、今回は野付の話を。

椎名野付半島のこと?

竹田そうです。せっかくフェリーで行くんだから、まだあまり行っていないエリアをのんびり走りたくて。

椎名北海道は広いぞ。

竹田グルメの街・帯広で飲んでから海に出て、釧路へ。「竹老園」で牡蠣そばをすすって、厚岸で牡蠣をいただいて、そのまま根室まで進んで、納沙布岬で愛を叫ぶ。

椎名誰かと行くの?

竹田一人です。

椎名バカめ。

竹田その後は北に進路を変えて、別海あたりを抜ける予定なんですが、いろいろ調べていると野付半島に「キラク」という幻の街があったという話を聞きまして。

椎名俺、行ったよ。

竹田そうなんですよ。検索かけたら「作家・椎名誠が『笑う風 ねむい雲』に書いている」と出てきて、さっそく読みました。文庫は集英社なんだけど、オリジナルは晶文社なんですね。2003年発行。

椎名そんなに前のコトだったのか。

竹田平野甲賀さんの装丁も、アマゾンのベンジャミンというワニの話もいいですが、それはまた機を見て聞かせてください。「北の果てのまぼろしの集落『きらく』ものがたり」、いいっす。最高にいいっす。未読の傑作コラムがまだあるなんてさすが粗製濫造作家ですねえ。

椎名褒められている気がしない。

竹田小説なのでちょっとタイプは違うのかもしれませんが、最果てという意味では『ぱいかじ南海作戦 』(新潮社)を椎名さんは書いています。あれを北に当てはめると朴訥で荒涼としたああいう風景になるんですかね。ちょうどそんな感じの写真が載っている。空を大きく撮って、枯れ気味の立木が最果てらしさを強めています。

椎名でも、ユーレイはいなかったんだ。

竹田ははは。でも、そしたら前述の「物乞い旅」で野付に行ったのがその時以来ということですか?

椎名あれは何年?

竹田僕がブブゼラを吹いて牛を呼び寄せてましたから、2010年ですね。

椎名じゃあそうだろうなあ。

竹田あの時、釣りをしてから「尾岱沼温泉シーサイドホテル」の日帰り温泉に行ったんです。

椎名そうだっけ。

竹田海が見えるいい風呂だったんですが、全員、腹ペコで早くキャンプ地に戻りたかった。そんな中、いつもは人一倍風呂も早くて、上がったらすぐビールだからなガチガチに冷やしておいてくれよ、と凍傷上等冷え冷えビール命の椎名さんが、風呂上がりに海が見える長椅子に座って「ちょっと汗がひいてから戻ろう」と言ったのを覚えています。

椎名ふーん。

竹田その時は失礼ながら「何を柄にもないことを。早く帰ってサッポロクラシック!」と思っていましたが、『笑う風 ねむい雲』で「この次にここにくる時はもう少しいい季節、たとえばハナマスの花や実がしげること、心地いい風のなかで砂州の先を眺めていたい」と書いていて、それ読んで「あれだったのか!」と点と点がつながりました。

椎名その記憶はないけれど、いちばん端っこにも暮らしや歴史があるという当たり前のことを確かめることができた取材旅だった。

竹田今、野付も出てくる司馬遼太郎さんの『菜の花の沖』(文春文庫)を読んでいるところです。

椎名きらく、行ってきてくれよ。今はどうなっているのかな。

竹田一緒に行きましょうよ。

椎名砂嘴をけっこう歩くから嫌だ。

竹田写真撮るだけでもいいじゃないすか。シマエビが旬です。

椎名あれうまいけど剥くの面倒なんだ。

竹田ワガママだなあ。畜産王国北海道には濃厚ソフトクリームがありますぜ。

椎名それはいいなあ。

竹田意外なところに食いついた。では行きましょう。

椎名誠:サケ作家。どうせまだまだ暑いだろうからカクヤスで酒をたくさん頼んだ。ハイボールも好きだが炭酸で割るのが面倒なのでそれは池林房で飲む。

竹田聡一郎:麦酒ライター。「Lit work place」もいいが、野沢温泉「里武士」、沼津「ベアードタップルーム沼津フィッシュマーケット」、広島「重富ビールスタンド」に行きたい。

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