181杯目:野に咲く花のように

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シメサバは日本だけでしか食べられないだろうなあ
静岡県三島市/椎名誠撮影
(NIKON Df)

竹田帰ってきたんで飲みに連れてってくださーい。

椎名今度はどこへ行ってたんだっけ?

竹田カナダです。アトランティック・カナダとも呼ばれる、大西洋側のニューブランズウィック州です。長い冬が終わり、陽光が強くなってきて……。

椎名フーム。でも最後はビールがうまいって言うわけだろ。

竹田そのとおりでぇす! ブリュワリー併設のパブが楽しすぎて通ってしまった。

椎名そして日本の居酒屋が恋しくなったの?

竹田実はそうでもないです。向こうでおにぎりを食べてたんですよ。

椎名売ってるの?

竹田いや、たくさんいただいたんですよ。

椎名貼り絵でもやったのかい?

竹田ぼ、ぼくはそんな器用じゃないんだなあ。誰が山下清画伯なんすか。JA全農がカーリング日本代表をサポートしていて、世界選手権などの海外遠征時に和食を提供しているんです。

椎名君は日本代表でもないのに厚かましくそれを食べたの?

竹田お裾分けですよ。いいじゃないすか、ちょっともらったって。

椎名誰が作るの?

竹田現地の日本料理店と提携することもあれば、日本から管理栄養士の資格を持った料理研究家を派遣して現地でコンドミニアムを借りてそこで調理するなど、ケースバイケースです。

椎名手間がかかってるんだねえ

竹田昼はおにぎり弁当。夜はどんぶり弁当。ちゃんとおかず、副菜、フルーツがついている。「高野豆腐と野菜の煮物」や「ひじき入り和風つくね」なんて海外で初めてお目にかかりました。

椎名渡航先ではそういうものが食べたくなるかもなあ。

竹田椎名さんは長期海外取材中に和食が恋しくなったりとかはありますか?

椎名人並みにはあるよ。基本的にはビールさえあればいいやと思っていたけれど、醤油味が欲しくて狂いそうなことがあった。

竹田ああ!『全日本食えばわかる図鑑』(小学館)で読みました。伝説の「お醤油お湯」。

椎名あれはうまかった。あまりにもうまいので、日本でもやってみたことがあるけど、ただの薄まった醤油だった。だまされた。

竹田誰もだましてないっす。

椎名あとは出汁かな。蕎麦とか味噌汁とか。醤油ラーメンのスープもいい。

竹田いいですなあ。椎名さんのご近所には蕎麦屋も町中華もある。ハシゴしましょう。

椎名勝手に行けよなあ。

竹田えー。一緒に行きましょうよ。でも、日本は一人でも入れる飲食店が多くていいですよね。海外、特に欧州や北米では、パブやファストフードはともかく、かしこまったレストランには一人で入りにくい。

椎名そもそもひとり客を想定していない社会だからなあ。

竹田それもありますね。椎名さんは海外でレストランひとりで入ってます?

椎名ほとんどが仕事だから街では編集者や関係者と「打ち合わせ」と称して飲みに行くことになる。娘や息子に会いにアメリカに行った時も一枝さんが一緒だったから、ひとりで食事した記憶はあまりないなあ。

竹田そうかあ。キャンプも多かったし、椎名さんの旅はそもそもレストランで食事、というシチュエーションが少ないのかもしれませんね。

椎名アラスカでエスキモーと旅をした時、彼らはアザラシを獲るとすぐに腹を引き裂いてその場で食べるんだ。思えばあれも旅先の食事だった。常に無料だったけど。

竹田極北の狩人』(講談社)あたりに詳しいですね。味はどうだったんですか?

椎名アザラシの生肉の味としか言えない。でも極北では重要なビタミン源だから味がどうとか言ってられない。強いて言えばよく噛んで食べるべき食材だった。

竹田「食事」って辞書でひくと「生命を維持するために何か食べて栄養をとること」と出ます。なんだか考えさせられますなあ。

椎名蕎麦とか醤油ラーメンとか、贅沢ばかり言ってはいけないんだ。

竹田蕎麦とか醤油ラーメンと言ったのは僕ですっけ? わかりました。では来月の椎名さんのお誕生日宴会のマグロ盛りは贅沢だからやめましょう。

椎名マグロは重要なビタミン源だからいいんだ。カツオはDHAも豊富だ。醤油はくれぐれもお湯なんかで割るんじゃないぞ。

椎名誠:酒が好きな作家。暑い時はまず生ビール飲んで、2杯目は黒ビールとのハーフ&ハーフだ。

竹田聡一郎:酒が好きなフリーライター。鯉のぼりの季節なので今のうちにたくさん飲んでおく。

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