171杯目:哀愁の町には何か降ったのだろうか。

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小岩の名店「一力」は閉店してしまった
東京都江戸川区/椎名誠撮影
(ニコンDf)

竹田新刊『哀愁の町に何が降るというのだ。』を読みました!

椎名そうか。いつ発売だっけ。

竹田版元の本の雑誌社WEBサイトによるとちょうど今日、3月12日搬入だそうです。もう書店に並んでいるのでは。

椎名何歳になっても新刊が出るというのは嬉しいものだ。

竹田特に同社からの出版は2011年の『足のカカトをかじるイヌ』以来、14年ぶりだと浜本編集長が教えてくれました。

椎名『足のカカトをかじるイヌ』ってタイトルは好きだったんだけれど、中身はあまり覚えていない。

竹田今回もいいタイトルですよね。

椎名実は『哀愁の町にオババが降るのだ。』という案もあった。

竹田ええ! インパクトはあるけれど、整合性はない。この“何が降るのだ”については「本の雑誌」で同名連載がはじまった時、「最近のシーナ」36杯目で触れているんです。

椎名いつ頃?

竹田2022年の春くらいですね。当時は「沢野ひとし画伯のスピンオフ」という解釈もできる連載ではありました。

椎名そうだっけ。

竹田ここからはデリケートな質問になるんですが。

椎名なんでも聞いてくれ。

竹田もちろん沢野さんも重要登場人物ではあるのですが、やはり印象的なのは若き日の椎名さんの性への覚醒の部分なんですよね。

椎名そうかもしれないね。

竹田椎名さんの作品にしては女性の登場人物も多いと感じます。

椎名それは他の編集者にも言われたな。

竹田そしてこの連載中、2023年に目黒考二さんが逝去してしまいます。「シーナ、逃げるなよ」という重い言葉が『続 失踪願望。 さらば友よ編』(集英社)にありますが、目黒さんが椎名さんに指摘した「ヰタ・セクスアリス」と深く関連している。

椎名メグロは厳しかったからな。

竹田本作は『哀愁の町に霧が降るのだ』(情報センター出版局)のエピソード・ゼロとも読めるので、小学館文庫で読み返してみました。そもそもなぜ小岩で共同生活を始めたのかという記述がもう少し読みたかった、と思っていたらそのあたりの理由や衝動が“何が降る”には描かれている。

椎名そうだね。

竹田チチチ、チチチチ。

椎名やめなさい。

竹田いわゆる40年後の謎解き、種明かし的な部分がすごい文学的で面白かったです。

椎名そうかあ、それは良かった。

竹田シリアスな部分での椎名さんの揺らめきと、沢野さんをはじめとする登場人物の愉快で奇妙なキャラクターの対比で力が抜けて緩急もありますよね。椎名さんのイラストも平和だったり不気味だったりして嬉しい。

椎名ちゃんと読んでくれてありがとう。

竹田これ連載はまだ続いてるんですよね?

椎名そうだね。何本かその先も載っている。

竹田おおお、そっちもチェックしてみます。あとがきにあたる「そうしてー」というみなさんの近況が最後に載っているのも個人的には興味深く読みました。

椎名キルギスだ。

竹田椎名さんは以前から行きたい国にキルギス共和国を挙げていますが、そこにも理由があるんですか?

椎名どうなんだろう。基本的にはシルクロードがらみで興味があったんだが、潜在的にそういう部分もあるのかもしれないなあ。

竹田いい読書させてもらいました。僕は最近、横浜や横須賀に取材や所用があって、電車の中でもけっこう読んだのですが、このA5判という判型はいいですね。久しぶりに本を携えて町に出る感覚を味わえました。

椎名いいこと言うじゃないか。

竹田続編も楽しみにしています。

椎名がんばります。

椎名誠:腰痛作家。久しぶりに池林房に行った。混んでいた。生ビールはうまかった。マグロを2皿食べた。

竹田聡一郎:悪玉コレステロールを追い出したいけれど生ビールがうまいので困っているフリーライター。

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