169杯目:変わつちまつた新宿とシーナに
変わつちまつても三丁目にはよく行く
東京都新宿区/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 90 ネオクラシック)
竹田椎名さん、新宿行きましょうよ。
椎名嫌だ、寒い。
竹田太田トクヤが待ってますよ。
椎名ううむ。トクヤにもしばらく会ってないなあ。
竹田池林房でマグロカツオ合い盛りに焼酎お湯割り。
椎名ううむ。
竹田玉ねぎのコンソメ丸煮もつけちゃう!
椎名おお。もう一声。
竹田白子ポン酢でどうだぁ!
椎名胃袋をなだめておく。君らは行っているの?
竹田行ってますよ。2月4日は「太田篤哉傘寿のお祝い」が浪漫房で盛大に開催されました。
椎名あいつも80歳かあ。お互い歳をとったなあ。
竹田トクさんのご友人も例年通りたくさんいらっしゃって、みなさん様々な酒をやっつけてました。頼もしい。
椎名これ新宿の写真?
竹田そうです。ちょうどその日にトクヤさんのご友人が『新宿遊牧民』(講談社)のサイン本を持っていらして「久しぶりに読んでから新宿に来たんだけれど、この表紙の風景とちょっと変わってしまったのかねえ」と。
椎名懐かしいねえ。
竹田和田誠さんとお仕事されているの、すごいうらやましいです。
椎名惜しい人を亡くした。
竹田そのイラストの場所であるトクヤさんのビルの屋上に上がって、同じあたりから写真を撮ってみたんです。
椎名ちょっと変わってるかい?
竹田表紙にあったタワー駐車場がホテルになっています。歌舞伎町方面にも新しい大きなビルがいくつか。
椎名新宿駅のあたりも再開発しているんだろ?
竹田14杯目で駅周辺の変遷についてちょっと話しましたが、あれからまた進んで小田急デパートの部分がぽっかり空白として広がっています。
椎名いっそそのままでいいんじゃないか。
竹田確かに「空が広くていい」という意見もあるとか。ただ、駅の東西口を地下から往来できるようになるなど、便利になりつつある。以前は大ガードのあたりか南口の甲州街道から大回りしていたので。
椎名ふうん。渋谷も再開発していると聞いたけれど、同様に最先端のビルが建つんだろうね。
竹田小田急百貨店の跡地には2029年完成予定の新宿で最も高い超高層ビルを作っているようです。
椎名でも新宿はさ、商業的な部分より巨大ターミナルとしての利便性を優先してほしいよ。シンプルで分かりやすく、動線が明確なほうがいい。
竹田ただ、三丁目はあんまり関係ないです。池林房をはじめ、長春館もどん底も呑者家も西尾さんも健在です。松喜鮨だけなくなっちゃいました。跡地はなんだか忘れたけれど軽薄な店になっていました。
椎名ううむ。『新宿遊牧民』の頃から変わったかという視点ではどうだい?
竹田あの「小川いっぱい小説」は、本の雑誌編集部や目黒考二さんが源泉だとすると、そこから岩切靖治さんやホネ・フィルム、各出版社の編集者、そこで出会った齋藤海仁や西澤亨のような本流が流れていて、僕はさらにその下の下流のせせらぎくらいなもんなんですよ。だからその視点ではなんとも言えません。
椎名そうか。君は割と後から登場したもんな。
竹田でも縁を感じるのは、同作は講談社「小説現代」の連載作品なんですね。
椎名そうだね。担当編集者は面白い人なんだ。奥さんが3人くらいいる。
竹田そうそう、Iさん。ひとり一夫多妻制という伝説の男です。正確にはバツ2でお子さんが……と彼の人生を書くと長編になるので、それはまたの機会に。
椎名彼と仲が良いの?
竹田それなんです。僕がライターを志したのは椎名誠や沢木耕太郎、近藤篤らの影響があるんです。
椎名ふうん。
竹田で、それを実務的に実現させてくれたのが『新宿遊牧民』の編集者のIさん。講談社の読者招待企画で初めてお会いしてビール飲ませてくれて、そんな話をすると「ふーん、じゃあどっか編集部紹介するよ」とおっしゃってくれて、同期で情報誌の豪傑女性編集長のところに放り込んでくれた。そこで麻雀を鍛えられた。
椎名そうだったのか。
竹田講談社で情報誌、グルメ誌、週刊誌でも仕事するようになり、『新宿遊牧民』にも出てくる同社の斎藤ヒロシ、香山光に出会い、そのうちに「椎名さんがキャンプのメンバーを探しているが、行くか?」と誘われて、雑魚釣り隊に入ったという経緯です。
椎名そうなのか、初めて聞いたぞ。我が人生を流れている小川はまだまだ繋がっているんだなあ。Iさんは元気?
竹田はい。美しい道産子娘を嫁にもらい、楽しく過ごしています。僕は時々、お邪魔させてもらい酒を飲み散らかし、美しい嫁に「もう帰ってくれ」と言われたりしています。
椎名ちゃんとした嫁じゃないか。
竹田実は僕は、雑魚釣り隊に入る前にIさんに連れられて池林房で椎名さんにお会いしているんです。
椎名そうなの?
竹田椎名さんが浮き球野球の6号坂カラコロ団で主砲だった頃ですね。そこにIさんも所属していて、なんだか分からんけど僕もカラコロ団の忘年会かなんかにお邪魔しました。Iさんが僕を紹介してくれると、椎名さんは「そうか、君は身体も大きいしよく飲みそうだな。よろしく」と快活にご挨拶してくれて、「おお、シーナマコト、いい人だ」と20代の竹田セーネンは思ったのでした。
椎名「その印象は今も変わってません。めでたしめでたし」
竹田勝手に終わらせないでください。だからその日、池林房の座敷で椎名さんと緊張しながら乾杯してから、ずっと楽しい日々が続いているのは本当ですね。ということで、新宿に行きましょう。
椎名嫌だ、寒い。
竹田新宿もシーナも変わっちまったなあ。
椎名誠:バカ旅酒作家。腰痛と冬季鬱で少し停滞気味。春よ来い。
竹田聡一郎:ビール命のフリーライター。春は来てもいいが花粉は飛ぶな。