164杯目:のどごしのもんだい
優雅に飲めるようになりたい
チェコ・プラハ/竹田聡一郎撮影
(カメラ:SONY/レンズ:TAMRON)
竹田飲んでますかあ!
椎名そんな元気バクハツ的に聞かなくてもしみじみ飲んでるよ。
竹田お、舟唄ですね。ダンチョネ。
椎名そんなつもりで言ってない。
竹田でも僕、椎名さんに一度、聞いてみたかったんです。
椎名なんだい?
竹田池林房や犀門で生ビール飲む時、椎名さんって夏でもゆっくり飲むんですよ。
椎名文句あんのか。
竹田いや、別にいちゃもんではないんですが、いつでもどこでもビールうぐうぐの椎名ホップ誠ですから、ちょっと意外だったりもするんです。
椎名何がいけないんだ?
竹田ぼかあ生粋のシーナ読者でもあるので、ビールはモコモコの泡を失わないうちにガブガブ飲んで「おかわり!」が、いちばん正しい飲み方だと信じているのです。
椎名喉越しや爽快感という意味ではビールは最高峰の飲み物だから、それもいいでしょう。中国では乾杯を「杯を干す」と書いて「干杯」、だから彼らは白酒を一息で飲み干す。ロシアのウォトカ、メキシコのテキーラ、イタリアのグラッパあたりも「干杯」でいいんだけど、一息で飲む酒でハードリカーじゃないのはビールだけかもしれない。
竹田なるほど。
椎名俺も若い頃はどんな時もビール命の「おらおらおかわり持ってこんかい男」だったよ。
竹田ふんふん。
椎名今でも暑い日の野外とか1日働いた後の最初のビールは一息でだいぶ飲むけれど、年齢による一口目の減少傾向はある。
竹田ふんふんふん。
椎名ビールは炭酸が腹にたまるからねえ。しかし、だ。同じビールでも例えば、黒ビールは一気で飲むかい?
竹田あぁー! そうか、ギネスをはじめとしたスタウトやポーター、シュバルツ系のケストリッツァーなんかはゆっくり味わいたいですもんね。すごい腑に落ちました。
椎名君は寝起きのカバみたいになんでもかんでもゴクゴク飲み過ぎなんじゃないか。
竹田この写真、チェコで撮ったんです。
椎名ランチョンにあるやつ?
竹田そうです。名店、神保町「ランチョン」に置いてあるチェコビール、ピルスナー・ウルケル様です。
椎名君はこういう被写体がくっきりしている写真のほうが向いているよ。バカなんだから深く考えないほうがいい。本能と反射で脳みそを使わず撮りなさい。
竹田初めて椎名さんに写真を褒められた。
椎名前向きなのは唯一の長所だね。
竹田今年はいける気がする。
椎名それでこの写真がなんなんだ?
竹田当然ながらうまいんですよ。鳥は飛び花は咲き魚は泳ぎ、プラハで飲む生ウルケルはうまい。
椎名当たり前だろ。
竹田だから僕は例によって「ゴクゴクウグウグプッハーおかわり!」なんです。
椎名ああ、そういうことか。
竹田プラハは注いでくれるあんちゃんがいるタップまで自分で行って注文するタイプのパブが多かったので、店によっては「おお、こいつビール好きなんだな」という好意的な目で見られることもあれば、「せわしないなあ、もっとゆっくり飲めばいいのに」と思われた気もして。
椎名両方なんじゃないの。
竹田チェコだけでなくドイツでもスペインでもラトビアでも、欧州諸国のパブには必ずひとりでゆっくりビールを味わうじいちゃんがいるじゃないですか。
椎名俺の印象ではスコットランドに多い。
竹田黒ビールをゆっくり味わうのは特に絵になりそうだなあ。彼らは店の人や常連同士でも挨拶程度で、決してベタベタせずに、ひとりで姿勢良くビールを味わって、どこか遠くを眺めている。あれ、何を見てるんでしょうね。
椎名君には見えないものだろうなあ。
竹田いつか見えるようになるのかな。
椎名日頃の行いが人より悪いからな。
竹田あなたには言われたくないなあ。
椎名でも、君のビール干杯は別に悪いことではないぞ。そもそも日本の大手会社のビールは喉越し重視で作られているピルスナーだから、正解ともいえる。
竹田そうかあ。なんでもかんでもうぐうぐではなくタイプによっては「コクリ。うむ、うまい」があるってことか。
椎名そういうことだね。
竹田ところで僕は寝起きのカバみたいですかね?
椎名逆立ちするともっとそっくりだよ。
椎名誠:バカ旅酒作家。映画とウイスキーが好き。BSで寅さんがやっているとつい見てしまう。今年は腰痛が緩和するといいなあ。
竹田聡一郎:麦酒フリーライター。カーリングの日本選手権が2月に横浜で開催されるのでちょっと忙しい年始だ。みなさま横浜BUNTAIでお会いしましょう。