157杯目:筆と瓦版

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旅の記録や自分へのお土産としても新聞は優秀だ
東京都渋谷区/竹田聡一郎撮影
(カメラ:SONY/レンズ:TAMRON)

竹田椎名家の新聞は何をとっているのですか?

椎名今は東京新聞だけ。君は?

竹田ここ1年は朝日新聞です。

椎名なんでそんなこと聞くの?

竹田椎名さんの前で言うのは恥ずかしいのですが、旅の多い人生でして。

椎名写真の地方紙を読んでるってことか。

竹田おっしゃるとおり。楽しいんですよ、地方紙。

椎名俺も好きだよ。社説とかが良くも悪くも偏っていて読み応えがある。

竹田この写真では埋もれてしまって見えないんですけれど、127杯目で福井に行ったのがちょうど3月16日だったんです。

椎名なんかの日だったの?

竹田北陸新幹線の金沢敦賀間、延伸開業日でした。

椎名紙面にはその記事が?

竹田一面で「北陸新幹線県内開業」の見出しを大きく打って、街の人の喜びの声を拾っていました。経済面では特に関西圏からの人流や観光客の増加を期待する記事が。入手はできなかったのですが、号外も出たようです。

椎名東京にいると「地方のニュースかあ」なんてある意味では傲慢になってしまうけれど、地元の人にとっては大ニュースだもんな。

竹田そうなんです。地元紙を読むとその街の人が何を見て生活しているのか、少しだけでもヒントになる。そして福井新聞は面白かった。なんでも同紙は県内普及率が全国でも1、2を争うとか。

椎名そんなデータもあるのか。福井県は幸福度みたいなのも長きにわたって1位じゃなかったかな。

竹田あー、そうですね。まあ、ああいうのは調査してる団体によって左右されたりもしますが。確か社長輩出率も1位っす。

椎名へえ、面白いな。この写真の日刊宗谷っていうのも興味深い。

竹田北海道はでっかいですからね。全国紙と北海道新聞、さらに函館新聞、道北日報、日刊留萌新聞、網走タイムスなんてのも。10紙以上ありそうです。

椎名わあ、網走タイムスは読みたいなあ。流氷や漁獲量、あとは出所の情報とか読み応えありそうだ。

竹田今度、買ってきますわ。日刊宗谷は1946年創刊で宗谷管内1市9町村を発行エリアとし、もちろん日本最北で発行されている新聞ですね。月額は1500円!

椎名いいではないか。でもロシアがらみ、アイヌの文化などなど紙面構成や表現、取材は大変かもしれない。新聞記者って一度は憧れるよね。

竹田 松本清張さんや司馬遼太郎さん。井上靖さんと山崎豊子さんなんか毎日新聞でデスクと記者の関係ですもんね。

椎名へー、そうなのか。

竹田『美味しんぼ』の東西新聞でいえば富井富雄と栗田ゆう子みたいなもんですわ。

椎名何を言っているか分からない。

竹田 椎名さんは自由な山岡士郎タイプかな。それはいいとして、本多勝一さん、横山秀夫さん、高村薫さん、堂場瞬一さん、たくさんいらっしゃいますね。塩田武士さんなんてそれこそ大都市ではありますが、神戸新聞という地方紙出身です。直近では今年の直木賞作家である永井紗耶子さんも。

椎名君はずいぶん詳しいね。

竹田僕はサッカー選手になれないと悟った後は新聞記者になりたかったんです。でも絶望的に勉強ができなかった。

椎名記者は基本的に優秀だよなあ。たまにアホもいるけど。特に本多勝一さんや高村薫さんは作品にその人が歩いてきたであろう背景がしっかりあるもんな。

竹田椎名さんも業界誌の記者ではありました。

椎名俺には高村さんのような硬派な小説は書けないよ。『マークスの山』(早川書房、講談社文庫ほか)をメグロ(目黒考二)に薦められて読んだけれど、1回じゃよく分からなかった。2回読んで「なんて面白いんだ」と驚いたのを覚えている。

竹田なので、個人的には筆を持つ職業の中でも新聞記者は特にキレッキレでいて欲しいんです。

椎名さっきの地方紙の話だと社説とかで名文を見つけることがあるよな。

竹田そう! それに出会いたくて僕は地方紙を読むんです。

椎名地方紙評論を書けよ。

竹田おお、それもいいかもしれないですね。「本の雑誌」じゃないけれど「週刊地方紙ガイド」。

椎名いいではないか。我々は宮古島によく行くけれど……。

竹田宮古毎日新聞だ!

椎名そうそう。紙面に「歯医者で靴の取り違えがありました。心当たりの方はー」だもんな。参った。

竹田情報、報道、伝達というものの原点ではあります。ほぼ瓦版。

椎名福井新聞の話もそうだけど、新聞が平和なら世界は平和なのかもな。

椎名誠:酒呑み作家。最新刊『思えばたくさん吞んできた』(草思社)が好評発売中。

竹田聡一郎:ビール偏愛フリーライター。新幹線で思えばたくさん酔ってきたが、周囲には好評ではない。

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