153杯目:思えばたくさん呑みすぎた

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窓際の席は神保町の街が見えて良い肴になる。
東京都千代田区/椎名誠撮影
(NIKON Df)

竹田草思社から新刊『思えばたくさん呑んできた』が発売になりましたー。

椎名うん。

竹田単純なワタクシは「はじめに」を読んで焼き鳥屋に直行して読んだのでした。

椎名ははは。

竹田「小笠原諸島のラム酒」の項では「太陽と南風が融合した超原始カクテル」が紹介されています。うまそう!

椎名うん。

竹田スコットランドの誇る清流・スペイ川の水割りスコッチ、イタリア人の嗜みであるグラッパとコーヒー、飲みたいですなあ。

椎名そうか。

竹田なんかテンション低くないですか?

椎名いやはや、本が出るのはいつも嬉しいんだけどさ、最近、こういう酒関係の本が多くて。

竹田昨年はだいわ文庫から『飲んだら、酔うたら』が出ていますね。

椎名酒の話は書きやすいしさ、他の人の酒エッセイを読むのも好きなんだ。

竹田だったらいいじゃないですか。

椎名でもゲラを読んでいるとオレについて「こいつ飲み過ぎだな、バカじゃないのか」と20回くらい本気で思うんだ。

竹田読者も同じ気持ちかと。でも、それがいいんじゃないですか。これは褒め言葉なんですが、椎名さんのことをマトモな人間と思っている人なんていません。

椎名うむ(うなづく)。

竹田だってこの本に書かれているだけでも、キャンプの焚き火を「閉店とお会計のない居酒屋」と称し、ワインの水割りを真似たり、深夜のヒトリ酒でボトル半分空けたり、ハーパーをノンアルコールビールで割ったりと、確実に狂っている。……いい意味で。

椎名「褒め言葉なんですが」とか「いい意味で」をつければ何を言ってもいいわけじゃないぞ。

竹田とはいえ初出はすべてたる出版の「月刊たる」掲載のエッセイ「酒ゴコロ、男ゴコロ」ですから、注文どおりのエッセイとも言えるのでは。

椎名そうか。

竹田逆に百篇近い酒エッセイを足かけ12年書くことができる作家はそういないかと。ほぼアル中ですね。いい意味で。

椎名いい意味のアル中なんてあるのかあ。

竹田しかし、「月刊たる」って、冗談みたいな、でもインパクトのあるいい名前の雑誌ですよね。もう500号を超えている。すごい。

椎名最初に依頼が来た時は冗談かと思ったけど、本当にあるんだ。大阪の出版社だよ。

竹田本町なんすね。あ、近くのアパホテルに僕は良く泊まっています。今度、突撃してミナミの居酒屋に連れてってもらいましょう。

椎名いいではないか。

竹田ところでこの写真はどこの酒場ですか?

椎名ランチョン。

竹田おお、今作にも「ランチョンのしあわせ」が収録されてますね。椎名さんが書いているように、古本屋巡りをして戦利品を携えて飲む遅い午後のピルスナーウルケルは至福ですよね。

椎名あそこは注ぎ方もうまいから、シンプルなアサヒの生もうまい。

竹田マルエフ! 1杯目をウルケルにするかマルエフにするかは人生の大きな決断であります。

椎名結局、両方飲むんだけどな。

竹田ああ、サケの話は楽しいなあ。でも、今回、興味深かったのは椎名さん「カクテルがよくわからない」という一篇をしたためているんです。

椎名もちろん、飲んだことはあるよ。

竹田その項で触れている開高健さんが愛した赤坂のドライマティーニは僕も飲んでみたいっす。

椎名あれは例外的に味わえた一杯だけどね。ちょっと代表的なカクテルを挙げてみてくれよ。

竹田ジントニックなんか最近はクラフトジン隆盛でどこでも美味しいのが飲めますし、マティーニ、マンハッタン、モヒートあたりは有名どころっすかね。僕はブラジルのカイピリーニャが好きです。

椎名たぶん全部、飲んでいる。でも東京で1杯2000円とか出して飲んでも、うまいとは思うけど感動はしないんだ。どれもきっと発祥の土地があって、元々はそこに根ざした酒でしょう。だったらそこに行って飲んだほうがいい。

竹田なるほどー。すごい腑に落ちました。そしていかにも酒狂いのヤブレカブレ旅作家・椎名誠の発言っぽくて感動しました。

椎名褒め言葉だよな?

竹田いい意味です。

椎名発祥の地に行くのは大変だろうけど、そういう酒紀行はあってもいいかもな。

竹田「たる出版」に突撃直訴してみようかな。

椎名そうしなさい。しかし、カクテルというのは盲点で、我が酒人生にもまだ余白があった。

竹田ポテンシャルっす。雑魚釣り隊にポンコツ弁護士いるじゃないですか。

椎名ポンベン。

竹田そう。彼の奥様が曙橋でバーをやってるんです。時々、隊員を飲みに連れてってくれるんです。

椎名ポン引きベン。高い店なの?

竹田いえいえ、すごいリーズナブルです。しかも、ポンベンツマは優しく、酒の話をすごい丁寧に教えてくれる。149杯目で新潟に行った時に、トクヤさんが県産ブランドのイチジク「越の雫」をお土産にしたらすぐさまカクテルにしてくれました。うまかった。

椎名ふーん。たまにはいいかもしれない。

竹田今度、行きましょう。「月刊たる」の連載のネタにもなりますしね。

椎名ではランチョンで喉を潤してから行こう。

竹田狂っている。

椎名いい意味だよな?

椎名誠:バカ旅サケ作家。名古屋場所が面白かったからビールがうまい。九州場所も楽しみだ。

竹田聡一郎:フリーライター。カープの歴史的失速に落胆したので旅に出ます。CSもNSも見ない。

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