150杯目:塩辛のせますか?

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でっかいと田畑は気持ちがよい
秋田県の山間にて/椎名誠撮影
(NIKON Df)

椎名先日はジャガイモありがとう。

竹田いえいえ。夏の終わりに北海道でジャガイモ農家さんのところにお邪魔して、収穫のお手伝いをしてお駄賃としてダンボール一杯の新ジャガをいただくんです。おすそわけ。

椎名美味しかったよ。

竹田どう食べたんですか?

椎名まず煮物。

竹田今年はレッドムーンという品種を掘ったのですが、煮崩れしないんですよね。

椎名あとは蒸した。バターたっぷし。

竹田王道のジャガバタ! いいですなあ。道民に倣って塩辛のっけちゃいますか!

椎名……それたぶん誤情報だ。

竹田え、ジャガバタは王道でしょう。異論は認めません。

椎名そっちじゃない、塩辛。地元の人は芋に塩辛はのっけない。

竹田んなわけない。私は新札幌のホテルエミシアや北見のドーミーインにて、この胃で確認しています。

椎名うん、だからそれ、ホテルだろ。観光客相手だ。俺も北海道の友人はいるけれど、ジャガバタに塩辛なんて聞いたことない。

竹田……ちょっと待ってください。

椎名スマホ取り出してどうした?

竹田嗚呼。僕がカーリング取材でお世話になっている、北見市出身の小野寺亮二コーチ、名寄市出身の谷田康真選手、札幌市の宿谷涼太郎選手、せたな町の高田聖也トレーナーの4人に連絡してみたんです。

椎名せたな町ってどこ?

竹田函館の北、長万部の西、北海道のくびれ西海岸ですね。沖には奥尻島が浮かんでいます。

椎名おお、奥尻。昔、中村征夫さんから話を聞いたことがある。

竹田征夫さんは1993年の地震の時にちょうど撮影で島を訪れていたそうですね。椎名さんの著書でいえば『あやしい探検隊 海で笑う』(情報センター出版局)でそのことが語られています。

椎名そうだったか。

竹田非常に生々しい話で、あの“アヤタン”の肩の力が抜けた紀行の中で、自然の脅威を教えてくれる貴重な述懐でした。話をジャガバタに戻します。道南、道南、道北、道東の出身のカーリング選手、関係者4名にバランス良く聞いたんです。ジャガバタに塩辛はのせますか?

椎名ふんふん。

竹田「のせない」「友人の中にはやっている人がいたかも」「そんな食い方知りません」「なんすか、それ?」という結果でした。

椎名聞いたことないもの。

竹田そうなのかあ。

椎名でっかい北海道には山間部も多いし、塩辛はどの地域にも馴染みがあるわけではない。

竹田でも調べてみるとですね、佐藤水産や紀文食品のwebサイトには北海道発祥の食べ方と紹介されているんですよ。

椎名そうなのか。でもちょっと商業的ではあるよ。もちろん、うまいんだろうけど。

竹田塩辛のシェアも北海道が1位だしなあ。

椎名塩辛ってうまいよな。ビールにも日本酒にもウイスキーにも合う。

竹田ほら。だからジャガバタに乗せてもいいじゃないですか。

椎名別に俺はジャガバタ塩辛を否定しているわけじゃないよ。君が北海道の伝統料理みたいな言い方をするから正してあげたんだ。

竹田……ありがとうございます。

椎名うむ。許してあげるからもっとジャガイモをよこしなさい。

竹田ジャガイモのカツアゲだ。働かざるもの食うべからず。来年は自分で掘ってください。

椎名敬老という意識はないのか?

竹田都合いい時だけじいちゃんぶるからなあ。

椎名タマネギがあってもいいなあ。ジャガイモとタマネギは世界中、どこにでもある野営料理の主役であり、旅の友人なんだ。

竹田友人を煮たり蒸したりしてるんすか。

椎名塩辛をのせてかぶりついたりしないだけ私は紳士です。君は野蛮人です。

竹田なんだかよくわからない結末になってしまった。

椎名誠:バカ旅酒作家。マグロ、焚き火、パタゴニア。

竹田聡一郎:フリーライター。レバ刺し、ブラックジャック、ポルトガル。

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