149杯目:鮫腹のマグロを食った
日本海の波音はいつも旅情を掻き立ててくれる
新潟県新潟市/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 90 ネオクラシック)
椎名これどこ?
竹田新潟市のいちばん南にある海水浴場、田ノ浦海水浴場付近です。
椎名どうしてそんなところに行ったの?
竹田浮き球です。浮き球とは浮き球三角ベースボール。詳しくは『海浜棒球始末記』(文藝春秋)シリーズを読んでいただくとして、その新潟ぽっぽ焼き団主催のプチ大会がありまして。
椎名ふうん。
竹田麻雀やってる時に太陽、ベンゴシと「久しぶりに行くかあ」と話していたら、トクヤさんのところで以前働いていた方が新潟で居酒屋をやっているらしく「俺も行く」と4人旅に。
椎名トクヤもフットワーク軽いなあ。
竹田元気な居酒屋ジジイです。そのお店は新潟駅の南側にある「ももふく」という郷土料理を中心とした居酒屋割烹なんですが、地酒が揃ってて楽しく酔えました。今度行きましょう。
椎名うん、ぜひ連れていってくれ。
竹田その新潟「ももふく」宴会の前泊で写真の海が見えるリゾートホテルにステイしたというわけです。
椎名そんないいところに泊まったのか。
竹田いや、割とボロく、部屋はやたら広いのですが、4人で13000円という破格だったので。
椎名バブルの産物かなあ。
竹田おそらく。海岸線には他にもそれらしい廃墟がいくつか。
椎名近くの寺泊の海岸で映画を撮ったんだ。
竹田そうなんですってね。前泊はそのボロリゾートで素泊まりだったので、長岡市寺泊の「魚のアメ横」こと、市場通りで肴を仕入れたんですよ。そこに向かう途中にトクヤさんが「あ、寺泊って椎名さんが撮った遠回り鮫肌海岸のロケ地だよ」と教えてくれて。
椎名惜しいな。『遠灘鮫腹(とおのなださめはら)海岸』(ホネ・フィルム)だ。
竹田もちろん僕らも作品は見ていて、ロケ地も新潟の海岸という知識はあったのですが、胎内とか村上とか、勝手にもっと北の海だと思っていました。
椎名佐渡島が見える荒っぽい、いい海岸だった。
竹田ちょっと海岸を走ってみたんですが、それっぽいロケ地は見つからなかった。でもこの写真、雰囲気は似てますよね。そうか佐渡島の見え方がヒントだったのか。
椎名昔は寺泊からもフェリーが出ていたんだ。
竹田へえ、そうなんすか。土地勘もあるし椎名監督はだからあそこをロケ地にしたんですね。
椎名あとは作品の性格上クルマが丸ごと砂のなかにもぐっちゃう条件があったんだ。
竹田なるほど。広い海岸じゃないと撮影できませんもんね。そもそも同作はオムニバス映画『しずかなあやしい午後に』の中の一本であり、「林政明さんのチャーハンがうますぎる。その秘密を撮ろう」が原点だと聞いています。
椎名あー、そうだったかもなあ。「リンさんチャーハンがうますぎる。なんかアヤシイものを入れているに違いない。映像に残しておこう」みたいな会話がスタートだった。でも、ちょっと考えてみると少し前に書いた原作と相性が良さそうだから、ちゃんとした映像にしたら面白そうだな、と思って。
竹田 『地下生活者・遠灘鮫原海岸』(集英社文庫)ですね。でも映画と原作はまた違っていいですね。
椎名ほぼ海岸だけで話は進むのだけれど、撮影している時に「こうしたら面白い!」と閃くこともあってあれは映画を撮っていて良かったなとしみじみ感じたよ。
竹田へえ。なんか裏話を聞くともう1回、見たくなりますな。
椎名ゲージュツの秋だし、上映会でもやるかあ。
竹田いいすね。酒持ち込みアリですか?
椎名やむを得ない。その寺泊の市場では何を買ったんだ?
竹田よくぞ聞いてくれました。ホテルチェックインに合わせて15時過ぎくらいに寄ったので、「もう品薄かもなあ」と覚悟していたのですが、閉店間際で「これぜんぶ、半額でいいよ」と言ってくれる店が多く、まぐろの赤身と中トロ刺身をひとり2点ずつ。クジラベーコン、スズキの刺身。全部で2800円。日本酒は諸橋酒造の越乃景虎!
椎名……なさい。
竹田え、なんすか? 長岡って16も酒造があるんですってね。久保田で有名な朝日酒造、漫画化、ドラマ化した久須美酒造も渋いなあ。
椎名買ってきなさい。マグロ8パックと地酒3本。クジラベーコンも忘れるな。今すぐ行かないとヒドイことが起こるぞ。
竹田怖い。だったらみんなで行きましょうよ。ロケ地再訪と地酒とマグロ旅。
椎名それもいいなあ。ゲージュツの秋だしな。
竹田食欲の秋。アル中の秋。
椎名誠:バカ旅酒作家。マグロ、焚き火、パタゴニア。
竹田聡一郎:フリーライター。レバ刺し、ブラックジャック、ポルトガル。