147杯目:AIに挑め

147

こういう時、AI車なら自分で暖房をつけたりするのだろうか
長野県大町市/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)

竹田特に暑さもやわらいでないので、久しぶりに新宿「犀門」で飲みましょうよ。

椎名いいけれど、あそこはタクシーで入るのに説明がややこしいんだ。

竹田確かに武蔵野通りは車両の進入はできないし、甲州街道側から行くためには迂回しなければならない。

椎名そうそう。勘の悪い運転手だと面倒になる。

竹田横着するからですよ。新宿高校の角あたりで降りて歩けばいいんです。今はUberなどがあるからそれを活用する手もある。椎名さんは嫌いかもしれないけれど。

椎名スマホ使うやつ?

竹田そうです。目的地を先に指定できるし、キャッシュレスだったりするから便利です。

椎名運転手は人間?

竹田怖いこと言いますね。どういうことですか?

椎名この前、海外で人工知能が運転する無人タクシーに乗ったという話を聞いたんだ。

竹田おお、AIタクシー。アメリカや中国で続々と実用化されているニュースを聞きます。

椎名面白そうだけれど、怖いよな。

竹田それは事故とかそういうことが?

椎名いや、無人という状況が。かといってAIが延々と世間話してくるのも怖い。

竹田どういう感じなんですかね。カーナビと会話する感覚かな。

椎名それに近いかもしれない。「ガイエンヒガシドオリカラデヨロシカッタデショウカ? キョウハボウネンカイデスカ?」とか。

竹田そんな流暢なんすか。別に世間話はしなくていいのでは。

椎名そういうわけにもいかないだろう。タクシーなんだから。

竹田よく運転手と喧嘩してたくせに。目黒さんが「椎名とタクシー乗ると剣呑とするから嫌なんだ」と嘆いていたことがありましたよ。

椎名AIだと喧嘩にならないな。

竹田それも指定できるんじゃないですか? 利用前にこっちの情報を入れておくんです。

椎名どういうこと?

竹田生年月日や出身地、趣味などを入力しておく。例えば「岩手県出身の40代男性、趣味は野球観戦」とすると、AI運転手が「オオタニサン50ゴウウチマシタネ」とか話題を振ってくる。

椎名それと話して楽しいのか?

竹田喧嘩するよりマシでしょう。もちろんミュートモードもある。

椎名ううむ。でも不意にトイレ行きたくなったりしたらどうするんだろう。

竹田それくらいの融通は効くんじゃないですかね。

椎名トイレ行ったら紙がなくてコンビニまで行って紙を買って戻ったら30分くらい経ってても待ってくれるのかな。

竹田そのコンビニでトイレ借りてください。

椎名そういう話をしているんじゃないんだ。君よりAIのほうが賢いかもな。

竹田ヒドイ。パワハラデウッタエル。

椎名そういう概念もそのうちできるのかな、AIが組合を作ったりして。

竹田映画では既にありますもんね。

椎名そうか。『ターミネーター』なんか代表作か。

竹田AIが反乱を起こす作品はけっこうあったんですが、去年公開された『ザ・クリエイター/創造者』という映画では人間側が劣勢な描写もありました。

椎名そうかあ。でもフィクションだもんな、と一蹴できないリアリティがあると映画も小説もぐっと面白くなるよな。

竹田AIとはちょっと違うけれど、椎名さんの『アド・バード』(集英社)や『水域』(講談社)なんかには加工人間やレプリカントなどが登場し、独特の世界と妖しさを醸成しています。

椎名ああいう本能的な生物がAIと戦争したらどうなるんだろうな。

竹田おお、いいじゃないすか。ぜひ描いてくださいよ。

椎名今は小説もAIが書いてくれると聞いたことがあるぞ。

竹田そうそう、それに関してはもうちょっと触れたいのでまた来週。さあ飲みに行きましょう。

椎名AI無人タクシー呼んでくれよ。

椎名誠:バカ旅酒作家。マグロ、焚き火、パタゴニア。

竹田聡一郎:フリーライター。レバ刺し、ブラックジャック、ポルトガル。

<<<146杯目    148杯目>>>

旅する文学館 ホームへ