145杯目:シーナさんに質問だ! 3丁目まつり特別編その2

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向かっていちばん左が太陽、いちばん右が童夢
長崎県平戸市/椎名誠撮影
(Canon PowerShot S120)

竹田前回の続きで、「シーナさんに質問だ! 新宿3丁目まつり特別編その2」です。

椎名質問はなんだい?

竹田第二部の池林房に来ていた若者の質問というか嘆願、あるいは直訴です。

椎名どういうこと?

竹田ひょっとしたら椎名さんは50年以上、この質問を受けてきたかもしれません。応じる時もあったし、お断りすることもきっとあった。

椎名もったいぶるなよ。

竹田では参ります。「ドレイになりたいのですが、どうしたらなれますか?」です。念のために補足するとドレイとは、シーナさんら探検隊シリーズのドレイです。

椎名それかあ。

竹田わしらは怪しい探険隊』が北宋社から出たのが1980年。それから1990年代後半の『春夏秋冬いやはや隊が行く』(講談社)をはじめとした、“第二次アヤタン”とも呼ばれる「いやはや隊」、そして第三次「雑魚釣り隊」は2005年に結成。その歴史は常にドレイと共にありました。

椎名あらぬ誤解を招く言い方だなあ。

竹田でも事実ですからね。現代だったら確実に何か言われてしまうであろう「ドレイ制度」は基本的には面白がって読まれ、場合によっては憧れる人もいた。

椎名ありがたいことに、そうかもしれないなあ。そのセーネンは他になんて言ってたの?

竹田ちゃんと歴代作品を読んでいたようで「薪を拾います。皿洗いもやります。海にも飛び込みます」と。

椎名ははは。

竹田しかし、まっすぐな目で「私をドレイにしてください。なんでもします!」なんて迫られて、たじろいでしまった。

椎名で、どうするの?

竹田あんたが隊長でしょうが。

椎名副隊長の君に任せるよ。君はドレイのおかしらでもあるんだから。

竹田こんな時ばかり副隊長扱いされるのは嫌だなあ。「おかしらはつらいよ 聡一郎面接編」ですな。

椎名いいではないか。人呼んでフリテンの竹。

竹田誰がチョンボ野郎なんすか。えー、どうしよう。

椎名最近のドレイや隊員はどうやって入隊してきているの?

竹田雑魚釣り隊のオリジナルメンバーであり長崎のドレイ兄弟こと橋口兄弟や、ドレイからコマセ酋長、青空料理長、さらに首席奏者まで成り上がった“ザコ”こと小迫剛、ヤブラシヤブちゃんや痛風川野、デザイナー ・ピスタチオという難波の三バカは直訴タイプですね。あとは浮き球野球をやっていたコークマン三嶋や踊る阿呆ショカツは巻き込まれ型ですね。仕事で椎名さんと関係のある代理店マンや編集者、カメラマンも何人かいますが、これは職務遂行堕落泥酔パターンに分類できます。

椎名なるほど。君は?

竹田僕は巻き込まれと職務遂行堕落泥酔の間くらい。ライター稼業をやっていたので、編集者の香山いてこましたろか君に浮き球と雑魚釣り隊を紹介された形でした。あとは、カメラマンの内海裕之のように椎名さんが『アイスランド 絶景と幸福の国へ』(日経ナショナルジオグラフィック社)の取材先で拾ってきたケースもあります。

椎名ふーん、いろいろだなあ。方々から集まってきた雑魚釣り隊だけど、みんな仲がいいよな。誰かと誰かが常にどっかで飲んでる。

竹田新宿には当然ながら大阪、名古屋、岡山、那覇には隊員がいますし、八丈島をはじめ盛岡や陸前高田、宮古島、勿来、高知、米子といった準ホーム地がある。取材やイベントがなくて椎名さんがいなくても週末ごとにどこかで宴会がある状態ですね。

椎名バカですな。でも愉快なバカがあっちこっちにいて心強いよ。

竹田そうなんですよ。基本は飲んだくれの集団なんですが、先日のイベントではしっかりみんながタスクをこなしてくれた。

椎名適材適所で頑張ってくれたな。

竹田手前味噌っぽくて若干、恥ずかしいのですが、彼らのすごいところは裏方に徹することができるんですよね。

椎名どういうこと?

竹田昔、椎名さんが『わしらは怪しい雑魚釣り隊』(マガジン・マガジン)の中で、童夢の愚直な純朴について「ノコギリを渡して『この丸太を切りなさい』と命じるといつまでもそれをやっている」というような表現をしているんです。

椎名あいつ素直なんだよ。

竹田同じようにショカツに「この魚の鱗はがしてくれ」といえば、大量のアジでもでっかい鯛でも「うっす」と一言で応じて完遂してくれる。三嶋を「薪を拾いに行こう」と誘えばキャンプファイヤーするくらいの大量の流木を拾ってくる。

椎名いいヤツらだなあ。

竹田特に彼らは、打算がまったくないんです。

椎名詳しく説明してくれ。

竹田例えば、編集者や僕のようなライターやカメラマンの内海なんかは、基本的には椎名さんと友人関係ではありますが、それ以前に「作家の椎名さんと一緒にいる」という意識がアタマのどっかにあると思うんです。どうしても仕事の要素が入ってくるし、やっぱり作家へのリスペクトが根底にはある。

椎名そうかもしれない、と思ったけれど、そんなの感じないくらい酔っ払っている時も見るぞ。

竹田ぐふっ、気をつけます。でも、さっき挙げた三嶋とかショカツとかって、身も蓋もない言い方をしますが、作家としての椎名誠を尊敬してないんですよ。

椎名なんてことだ。別にいいけれど……。

竹田おそらくそんなに著作も読んでないと思います。少なくとも僕らよりは読んでいない。でもそれを責めているわけではありません。彼にとっての椎名さんって、単純に気のいい兄貴分であって、もっと遠慮なく言えば一緒に飲んでて楽しい友人のひとりなんですよね。

椎名そっちの方が気が楽だなあ。

竹田そうそう。椎名隊長もそういうヒトだから、隊長に対しての年長者への尊敬はあるけれど遠慮はない。雑魚釣り隊でおそらく100回近く焚き火をしてきたけれど、焚き火を囲んで「新刊読みましたよ」とシーナ文学論に発展したことはないですからね。

椎名そうかもなあ。たまにはしたっていいけどな。

竹田そうなんですけどね、文学論や読書履歴の話は目黒考二さんであったり、「本の雑誌」の浜本茂編集長であったり、『水惑星の旅』や『ぼくがいま、死について思うこと』(いずれも新潮社)の担当編集である今泉正俊さんあたりには我々は敵わないので、どうしても雑魚釣り隊は飲めや歌えや方面担当です。

椎名ふうむ。

竹田もちろん「本をたくさん書いててすごいなあ」くらいの最低限の認識はありながら、多くの隊員には「作家と共に遊ぶ」という意識がいい意味で希薄だから、喧嘩もするし寝ゲロもする。だから気軽に「シーナさん、飲みましょうよ。遊びましょうよ」とみんな言い合える。雑魚釣り隊のメンバー同士でも、椎名さん関係ないところで友人同士として付き合いがありますからね。

椎名確かにそういう部分はあるかもしれない。

竹田とある週末天野と太陽が名古屋で、ショカツとヤブは西成で飲んでました。僕は広島で岡本部長と野球を観ていました。シンヤとザコはタコ釣りに行ってて、宍戸さんとトクヤさんは麻雀していたようです。

椎名バカだなあ。

竹田そう、バカなんです。だから、だいぶ回り道したけれど、ドレイになってくれるのであれば、「シーナ隊長含め、バカ隊員としっかり友人関係を築けること」が唯一の条件ですかねえ。

椎名みんなバカだから意外と難しいかもな。でも単純によく遊ぶやつであれば大丈夫か。

椎名誠:バカ旅酒作家。夏休みの宿題はけっこう好きだった。工作などをよくやった。

竹田聡一郎:フリーライター。怪しい雑魚釣り隊副隊長。夏休みの宿題は嫌いだった。

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