143杯目:チャイヨー、サルー、コンベ、トースト、チンチン
暑いのでせめて涼しい写真を
北海道網走市/竹田聡一郎撮影
(“チェキ” instax mini 8)
椎名しかし暑すぎるぞ。
竹田そうですねえ、生ビールがうまいですねえ。
椎名君は年柄年中、生ビール生ビールとわめいているぞ。馬鹿だなあ。
竹田自己紹介ですか?
椎名ともかく乾杯だ。
竹田乾杯といえば最近、大人数の宴席というか会合に参加したんですよ。
椎名面倒だな。
竹田神田にある割といい居酒屋で10人ほどの参加者。最初のドリンクオーダーは正確には忘れましたが、生ビール3、ノンアルコールビール、ハイボール2、モヒート、レモンサワー、プレーン酎ハイ、烏龍茶。そんな感じで飲み物のオーダーが割れたんです。
椎名生ビールの泡の話か。
竹田おお、反応と理解が早い。
椎名ベテランだからな。
竹田ある企業との仕事の打ち上げだったので、僕をゲスト扱いしてくれたのはありがたいのですが、最初に来た生ビールがぼくのもとへ。
椎名そうなるよな。
竹田それからドリンクがすべて揃うまで待って、いよいよ乾杯だという段になって生ビール様の泡がもうなくなりかけているのに、食べ物の注文をはじめる幹事らしきヒト。
椎名先に飲んじゃえばいいじゃないか。
竹田一瞬、それも考えましたけどね。そこからさらに偉い人の乾杯の音頭がある。
椎名ははは。
竹田誇張じゃなく5分くらい待っていた気がします。暑い日の1杯目はその日、最大の楽しみなのにぬるくて悲しかった。
椎名あれはさ、現行の乾杯制度がいけないんだよな。
竹田というと?
椎名みんな勝手に飲んじゃえばいいんだ。その上でなんとなく全員のサケが揃ったところで「では改めて乾杯」と挨拶でも音頭でもすればいい。どんなにいい挨拶でも「待て」の状況だとろくでもない内容に聞こえてしまうだろうし、飲みながらだったら長い音頭でも優しい気持ちで聞ける。
竹田それいいですね。飲み出し自由権と適宜乾杯制はすぐに導入し、普及活動をしてゆきましょう。
椎名乾杯新時代だ。
竹田我々も日々、酒場で乾杯はしているけれどグラス合わせることはほとんどしませんもんね。
椎名そのためにわざわざ席を立って寄って来る人もいるけれど、あれ焦るんだ。「俺のサケはやらねえぞ!」と思う。
竹田別に酒を奪いにくるわけじゃないでしょう。あと別日に港区某所のワインバーに行ったんです。
椎名そんなところ行くなよ。
竹田いいでしょう、別に。ちゃんと襟のついたシャツ着て行きました。
椎名ケッ。
竹田1軒目はステーキハウスで2軒目がワイン。
椎名ケケッ。
竹田おそらくいいグラスでいいワインが出てきたんです。で、奢ってくれるであろう方はしっかり乾杯したい派だったんですね。みなさんその方へグラスを差し出して、グラスを合わせて音を出して乾杯してました。あれってグラスが割れるリスクもあるし、マナー違反なんですかね。
椎名諸説ある。
竹田そう思ってちょっと調べたらですね、やっぱりワイングラスは「軽く掲げるだけでいい」という意見が多い一方で、オーストリアのワイングラスの老舗・リーデルは自社webサイトに「薄くて大きいグラスで乾杯をするのは緊張しますが、ポイントを抑えれば大丈夫です。ボウルの最も膨らんだところ同士を軽く当てれば、グラスが割れてしまうことはありません」と乾杯の注意を記しています。
椎名ふーん。どっちにしても面倒だからコップにどぼどぼ注いでガブガブ飲めばいいんだ。
竹田いかにも椎名さんらしい意見ではありますな。サルーテ。
椎名結局、酒の飲み方、乾杯の流儀などは各国、もっといえば個人次第だから。
竹田去年の『飲んだら、酔うたら』(だいわ文庫)なんかにはロシアや中国の乾杯が書かれていますね。
椎名ああいうのは面白いよね。類似する飲み方に宮古島の「オトーリ」がある。あれは人前で話す練習にもなる。
竹田なるほど。長いだけの挨拶をする人はまず宮古島に行け、と。あとは乾杯ではないですが、雑魚釣り隊で高知県香南市に行った時、はちきんガールズに「はし拳」や「可盃」(べくはい)、「菊の花」といった御座敷遊びを教えてもらったのは楽しかったですね。
椎名懐かしいねえ。
竹田詳しくは『おれたちを笑え! わしらは怪しい雑魚釣り隊』(小学館)に載っていますが、ああいうのも今はアルハラとか言われてしまうのかもしれない。
椎名もちろん強要は良くないけれど、「ハラスメントだ!」とか当事者でもないヤツが騒いでそれが無意味な大事になっているケースが多すぎる。
竹田乾杯と酒は難しいけれど、個人的には文化として尊重して残してほしい気持ちがおもむきゃれ。ところで、ドイツでは元気にビールを飲みたい時は「プロースト」、ワインなどを静かに味わいたい時は「ツムヴォール」という言葉をそれぞれ使うようです。
椎名そうなのか。面白いけれど、君はオツムもアレだし「ツムヴォール」は使わなそうですな。
竹田なんだって!?
椎名面白いからもっと調べておいてくれよ。
椎名誠:バカ旅酒作家。夏休みの宿題はけっこう好きだった。工作などをよくやった。
竹田聡一郎:フリーライター。怪しい雑魚釣り隊副隊長。夏休みの宿題は嫌いだった。