142杯目:オダンゴまつり

142

我が家にオダンゴはなかった
東京都中野区/椎名誠撮影
(“チェキ” instax mini 90 ネオクラシック)

竹田前回は『活字のサーカス』(岩波書店)が小学館から文庫化されたことに触れました。続いて『おなかがすいたハラペコだ。3 あっ、ごはん炊くの忘れてた!』(新日本出版社)が『おなかがすいたハラペコだ。 3 オダンゴまつり』に改題されて集英社文庫から発売されましたー。

椎名特にオダンゴについては書いていない。

竹田そのあたりは「文庫版あとがき」にありましたね。

椎名君は文庫解説を書いてくれたんだね。ありがとう。

竹田読んでくれましたか?

椎名じっくり読んでくれているので感心していた。

竹田実はこのシリーズの前作『 おなかがすいたハラペコだ。② おかわりもういっぱい』(新日本出版社)が同じく集英社文庫から出ているのです。その文庫解説も僕なんです。

椎名そうだったか、ありがとう。

竹田2作品連続で書かせてもらって光栄なのですが、一方で「この人、冷やし中華に対しての執着がすげえな」と思いました。

椎名そうかあ?

竹田「オダンゴまつり」のほうに「冷やし中華敗退の記」という項があるんです。

椎名うん。

竹田「威勢のいい店は出てきて『当店は通年冷やし中華やってます!』なんてのが出てきてもいいではないか」と書いている。

椎名心から思うよ。「冷やし中華はじめました」の張り紙がある店より、「冷やし中華終わりません」とあったらそっちに行くだろうな。

竹田単純に需要がないのでは? 真冬に冷やし中華は注文しないでしょう。

椎名沖縄だったらする。

竹田屁理屈だ。

椎名最近は酸っぱいタレではなく、ごまだれみたいな味もあるんだな。あれは邪道です。

竹田けっこううまいっすよ。それどころか愛知や岐阜、福井や三重あたりの東海圏を中心としたエリアではマヨネーズをタレに混ぜたりもする。

椎名冒涜です。

竹田愛知出身のコンちゃんと天野に確認したらみんなマヨネーズは普通に使うそうです。「それ変だよ」と指摘すると「マヨネーズ自体がうまいから別にいいじゃないか」とか「トマトやキュウリ、卵にだってマヨネーズつけるでしょう。それらはぜんぶ冷やし中華の具なのでむしろ当然」という、分かるような分からないような反論をされました。

椎名バカだなあ、あいつら。

竹田ってな具合で、この「はらぺこだ」シリーズをはじめ、椎名さんが俎上にのせる食べ物は基本的には庶民的なんですよ。だから読んでいて共感も反論もできる。だから解説も書きやすかったですね。

椎名グルメみたいなことを書くなんて恥ずかしい。

竹田でも「グルメ 作家」みたいなワードで検索をかけると、けっこう多くの人が挙げられますよ。

椎名例えば?

竹田池波正太郎さんとか永井荷風さんとか。

椎名そういう文豪はまた別な気がする。現代作家が「青山のフレンチで舌鮃のムニエルを食べた。オープンソースがペケチッタ産の白ワインと合う」とか書くのはバカみたいだ。

竹田オープンソースってなんすか? ペケチッタってどこすか?

椎名知らないよ。適当。

竹田まあ、度が過ぎるとスノッブっぽく読めてしまうことはままありますね。

椎名揚げたての80円のコロッケをはふはふやりながら飲む缶ビールにはかなわない。

竹田それは真理ですね。解説では書ききれなかったのですが「オダンゴまつり」には、「いなり寿司が好きだ」とか「珍味と呼ばれるものの定義が曖昧だ」とか椎名さんが興味深いことをたくさん書いていて。そのあたりを今後、議題としてこちらでも扱っていこうと思います。

椎名わかった。しかし腹へったな。

竹田オダンゴ買ってきましょうか。冷やし中華でもいい。

椎名マヨネーズはいらないよ。

椎名誠:バカ旅サケ作家。最近は『男はつらいよ 寅次郎真実一路』が好きだ。『男はつらいよ ぼくの伯父さん』も捨てがたい。

竹田聡一郎:ビール好きのフリーライター。今年は『カラオケ行こ!』が暫定1位の映画。青春モノを撮らせたら山下敦弘監督だなあ。

<<<141杯目    143杯目>>>

旅する文学館 ホームへ